もし「嘘」に距離があるのなら。

 本作のキャッチコピーが「積み重ねた嘘の上から見た景色とは…? 」となっています。
 
 aikoに「花火」という曲があります。
 そこで

 《夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして
 こんなに好きなんです 仕方ないんです》

 というサビがあります。
 
 この歌詞の「花火」は主人公の「こんなに好き」を意味しているという解釈がなされていました。
 つまり、この曲は花火(こんなに好き)を上から客観的に見つめて「仕方ないんです」と判断を下していることになります。

 本作「毎日は嘘の積み重ね」のキャッチコピーでは嘘を上から見ています。
 そして、その「景色とは…?」と問われています。

 aikoは「仕方ないんです」と判断していますが、「毎日は嘘の積み重ね」は「景色とは…?」と問います。


 主人公の永実子は当初、結婚生活における問題について周囲に「嘘」をついています。
 その嘘に耐えきれなくなって、仕事を辞めたとも書かれています。

 嘘は重く永実子の生活に横たわっていました。
 ここを読んでいると彼女がどれほど夫との結婚生活に悩んでいるかが、ヒリヒリと伝わってきます。

 そこに一通の手紙が届きます。
 物語はそこから始まります。
 その物語をキャッチコピーを踏まえると、まさに積み重ねた嘘を上から見るものでした。

 嘘を上から見る為には適切な距離を取る必要がありました。
 それは自分を客観的に見ることにも繋がります。
 
 永実子が嘘の景色と向き合うことで自分と向き合い、嘘の生活の根底にあった夫とも向き合います。

 個人的に前半は夫をそのまま「夫」と表現していたのに、後半からは名前で表現される部分はとても重要で、非常に上手い表現だと思いました。


 この物語を永実子が夫の名前を呼び、他人と適切な距離で愛することができるようになったと捉えることはできますが、
 そうすると幾つかの部分で取りこぼすものがあります。

 話数の中で「ゆり子の場合」というタイトルが時々、挟み込まれます。
 永実子の友達であるゆり子視点で描かれるシーンなのですが、彼女も問題を抱えています。
 本編で永実子が進むことでゆり子も辛い現実と向き合います。
 
 共通することは受動的だった彼女たちが、能動的に自らの気持ちを語ろうとする部分にありました。

 ちなみに、切り株ねむこさんは今作より前にも小説を書かれていました。
 タイトルは「紐 解くと さようなら」というもので、こちらの視点人物は男性でした。
 今回の「毎日は嘘の積み重ね」の視点人物は女性。

 二つを読み比べてみると、男性と女性の異性への愛する行為の違いと、その弱さが浮き彫りになっていて非常に面白いです。

 僕個人としては今作で登場した三名の男性キャラ、それぞれにある種の弱さが見えてきて、「分かるよ。今度、飲みとか行く?」と一人一人に声をかけたくなっていました。

 あとがきで既に新しい物語を書かれていて、テーマは「片想い」だとのことでした。
 いち切り株ねむこさんファンとして、楽しみに待ちたいと思います。

その他のおすすめレビュー

郷倉四季さんの他のおすすめレビュー96