毎日は嘘の積み重ね

切り株ねむこ

第1話

ほつれ出した糸が、

どんどんほどけてしまって

このままでは全てがほどけてしまう。


その前に止めなければ。


でも、ほつれいくスピードがどんどん加速して

追いつけない。


それを、何とか食い止める様に

私は嘘をついたのだった。


何かの始まりは、

綻びは、

いつだって、

知らぬ内。

そして、突然なのだ。







「永実子、スカートの裾がほつれてきてるよ」


 久しぶりに会ったゆり子が帰り道で教えてくれた。


「やだ、本当だ。でももう帰るだけだし大丈夫かな」


「すぐにまつり縫いするか、ミシンかけないとあっという間にどんどんほつれちゃうから!帰ったらちゃんと直さなきゃダメだよ」


私はきっとすぐにやらないだろうと思っての、ゆり子の言葉に、


「はーい」


 と先生に返事をする子供のように私は答えた。それを見てゆり子はいつもの様に呆れながら笑っていた。


 そうして、夕暮れ時に私たちは駅で別れた。


 ゆり子とはアパレルの職場の同期でだった。


 私が仕事を辞めてからもランチをしたり、一緒に買い物をしたり、ちょこちょこと会っている。


 私は結婚してから、半年後にその仕事をやめた。


 それから1年。

 ということは、結婚してから1年半。


「新婚さん、いいなぁ」

「今が1番いい時」

「羨ましい〜」


 などと周りから言われて、私はにっこりと嘘の笑顔で対応していた。けれど、それが出来なくなってしまい、仕事をやめたのだった。


 何かがおかしいと思ったのは、1日目の夜。


 初夜が無かったこと。


 新婚旅行先で、私はそれなりに期待して新しい下着なんかもつけていた。普段は身に付けないような

焼きたてのシフォンケーキみたくギュッとすると小さくなってしまう、ふわふわで半透明な可愛い下着。


 初めてする訳ではないけれど、一応結婚して初めての夜なのだから。特別だと思っていた。それを一般的に初夜と呼ぶ位なのだし。


 「これからはずっとよろしくね」なぁんて、どこかの歌の様に、キスをして始まるものだとばかり思っていた。


 けれど。

 夫は何もせずに寝てしまった。


 …疲れているのかな?…


 と、私は首を傾げながらもそうに違いないと、心とは裏腹にシフォンケーキの様な下着の慣れない柔らかさの中で眠った。


 そして、次の日を待った。


 が、その次の日もまたその次の日も、夫は何もしてこなかった。それは新居に住むようになっても同じだった。


 ちなみに私は24歳だった。

 そして、夫は一回り上の36歳。


 性欲という訳だけではなく、結婚してするセックスをしたかった。ずっと一緒だねとくすくすと笑いあって、愛されていると心でも体でも感じたかった。


 今までのセックスはまがい物で、これからが本当の愛の行為なのだと私は思っていたのだ。


 でも、夫は何もしない。


 結婚前は、それなりに普通にはしていた。

 

 けれど、思えば結婚前の旅行の時もしなかった。その時も首を傾げたけれど、大した問題ではないと思っていたのだ。


 結局、結婚してから1ヶ月ほどしてから業を煮やした私の方から夫を誘った。


 すると、「明日しよう」と言われた。

 そして、その「明日」になると、「明後日ね」と言われた。


 更にその「明後日」になっても、私たちは何もせずに眠った。





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