第2話

 私は夫が寝た後に、こっそりベッドから出てリビングで深夜番組を見ながら、声を出さずに泣く夜を過ごすようになった。


 自分がものすごく惨めに思えた。


「明日」と言われれば明日を待ち、「明後日」と言われたら明後日を待つ。自分から誘うということにも、本当はかなりの抵抗があった。だから、毎度何でもない振りをしながらも、本当は勇気を振り絞っていた。


 それなのに……。


 求められない事がこんなに惨めだとは知らなかった。


 愛されたいだけなのに。

 愛したいだけなのに。

 愛されていると思っていたのに。


 けれど、半年も経つと希望も持たなくなり、なんやかんやと理由をつけて、寝室を別にしてもらうことにした。夫は渋々ながらも了承した。


 セックスはしなくとも、夫は嫉妬深くて他の男の人の話をすると、あからさまに機嫌が悪くなった。それを見るに、愛情が無くなったからしないという訳では無さそうだった。


 私はホッとする気持ちと同時に、だったら何故……と少しづつ夫を憎む気持ちが芽生えていた。


 愛しい夫のはずなのに、私を惨めにさせる男という思いの方が徐々に大きくなってきたのだ。


 そして、ちょうど寝室を別にした頃。

 ゆり子が家に遊びに来た。


「新婚生活いいなぁ。すぐに子供が出来ちゃったりして〜」とからかわれた瞬間、涙が止まらなくなった。


 友人に全て白状するのもあまりに惨めだったけれど、私は既に1人で抱え込むには限界がきていた。


ゆり子は、てっきり幸せな新婚生活を送っていると思っていた私の告白に心底驚いていた。


「結婚してから1度もないの?それっておかしいよ」


 わかってる。


「一度ちゃんと話し合ったら?」


 出来るならしているよ、ゆり子。



 私から誘ったことは、実は他にも数回あってどれも理由をつけて全て延期にされ、たち消えた。その度に私は自分が欲求不満のアバズレの様に思えて余計に惨めになったのだ。


 セックスにこだわっている私は穢らわしい。

 

 その事が恥ずかしくて仕方がなかった。

 身体の関係が無いと愛せないのかと、自分を責めた。


 だからこそ「セックスについて話し合う」なんて

どうしてもしたくなかった。


 でも、ゆり子に話し、普通じゃないのは私ではなく、夫の方だと言って貰えた事で幾分気持ちが楽になった。



 ……ただ、その頃には私にも変化が起きていて夫とたまたま手が触れただけでも、嫌で嫌で仕方がなくなっていたのだった。




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