とても素晴らしい作品です。群像劇ながら破綻を見せず、最後まで余韻を残す。作者様の時間軸と場所軸に対する強さが、まざまざと見せつけられた一作でした。この作品を読まなかったら、後悔していたと思います。
物語が展開される場所は、籠根町という架空の町だ。その町では竜の卵を祀る神社があり、年に一度、龍神祭が行われている。
そこで観光客向けにドラゴン饅頭、約して「どらまん」を売る女性。それがこの物語の最初の主人公だ。そこに不思議な雰囲気をまとった旅の女性が現れ、どらまんを大量に買っていく。女性はこの町の言い伝えに興味があるらしい。
この町の神社では、男の子と女の子が、神隠しに遭っていたのだ。
第二の主人公は籠根町育ちの男性教諭。その男性教諭は、神社のご神体である龍の卵にかかわる「心霊写真」を友人に見せに行くのだが――。
それぞれの主人公たちが、それぞれの立場や想いから、自分の体験談を語り、そこには必ず旅の女性がかかわっている。
そして最後に明かされる切ない真実。
全てのピースがそろった時、カチリと頭の中で音がして、この物語のタイトルが体の中に降りてくる感覚でした。
是非、是非、ご一読ください!
本作のあらすじには
「龍の伝説が残る町。籠根町。
その町で主人公一ノ瀬十香が出会う一つのお話と、すれ違う四つのお話。 」
とあります。
籠根町を舞台に繰り広げられる優しく、甘酸っぱく、少し苦い四つのエピソード。
全ての登場人物が愛おしく感じられる青春譚となっているのですが、最後まで読んだ印象としては、あらすじの中の「すれ違う四つのお話。」という部分が重要に思えました。
ちなみに、本作のキャッチコピーは「龍の町が舞台の群像劇」です。すれ違う四つの話は独立したものはなく、あくまでゆるく繋がり、あらすじ通りに、すれ違っていきます。
登場人物がすれ違っていく中で、一つの意思を持って進む存在がいます。一ノ瀬十香です。
あらすじ通りなら、主人公はこの一ノ瀬十香になります。
しかし、章タイトルを見ると、そこには一ノ瀬十香の名前はありません。彼女は主人公でありながら、視点人物としての役割を与えられていないのです。
では、一ノ瀬十香はどのような役割を持っていたのか。
それは「すれ違う四つのお話。」に意味を与え、過去に大切なものを失った少年少女へと返還し、美しく、優しい「夢」のような時間を作り出すことだったのではないか、と思います。
少なくとも、終盤のあの美しい「夢」のような時間は一ノ瀬十香が籠根町を訪れなければ、あり得ないことでした。
そして、そんなあり得ない「夢」のような時間を成立する為に、細かなキーワードや小道具が冒頭から随所にちりばめられています。
この数々のキーワードや小道具が終盤、有機的に機能していきます。とくに花言葉が明かされる辺りは、上手いなぁと思わず声が出ました。
また、タイトルにもなっている町に関する伝承なども丁寧に書かれていて、それ故に籠根町という場所でなければ本作は成立しなかったのだろう、という納得もさせてくれます。
個人的に好きなキャラクターはラストで視点人物を務めた大平遼太郎で、彼のパートを読んでいると、「秒速5センチメートル」のキャッチコピー「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。」が頭に浮かんでいました。
臆して、ためらって、弱い部分をちゃんと晒してしまう大平遼太郎が僕は大好きですし、それは他の登場人物も同様です。
著者のてつひろさんは、そういう人間の柔らかく、触れられたくないような場所をそっと優しく掬い上げるのが、非常に上手い方だと思います。
今後の作品にも期待しています。
長々と失礼いたしました。
いつも、楽しく読ませて頂いております。
物語が完結してからレビューしようかと迷いましたが…この作品をもっと多くの方に読んでもらいたく、頑張ってレビューを失礼します。
拙い文章しか書けない私には、こちらの小説の優れた文章力が、とても勉強になりました。語彙力不足ですみません (汗)
とにかく、綺麗な文章力に圧倒させられました。
なんだか、その情景が目に浮かぶのです…そして、自分も物語の中にスッと入り込める……。これは、独特な物語の力でもありますね。私は、この世界観が好きです。
ライトノベル好きの私ですが、この作品こそがライトノベルだ ! …と、感じました。
是非、ライトノベルが好きな方や、小説が好きな方に、読んでもらいたい作品です。