これほど痛む初恋を、あなたは知らずに生きてきた。

どこまでも明るい幼馴染の灯莉。それとは対照的な引っ込み思案の俊貴。
灯莉に俊貴は救われます。日陰で息苦しかった日常から、晴れやかで美しい世界に灯莉が連れ出してくれる。俊貴は戸惑いながらも泳ぎます。そして世界の美しさを教えてくれた灯莉に、淡い気持ちを自覚するようになります。

明確な恋の描写がないんです。いつから好きだった、とか、ときめくシーン、恋に落ちる瞬間というのが描かれていない。
もしかしたら初恋って、一般的な恋と違ってグラデーションがあるものなのかも。葉っぱや花が色づくように、時間と共に変化して、そして大輪の、あるいは舞い落ちる、そんな現象が初恋なのかも。

痛いんです。読んでて胸がちくちくしくしくする。でも先に進みたくなる。ここで止めたくないと思う。そんな作品です。

二人のことを思うと考えが止まらなくなります。それは二人の今後を想像したい、という意味ではなく、いえもちろんそういう意味も多少は内包しているのですけれど、もっと二人の心のことを考えて二人の感情を追体験したくなる、そんな気持ちに飲み込まれてしまいます。

これ、多分青春真っ盛りの子が読んだらすごいことになるんじゃないかな。大人でさえ耐えられないほどの切なさ。巷に溢れる恋物語がチープに感じてしまう、かもしれない。

文章表現もそうなんですけど、過去を振り返りながら徐々に今の二人に焦点が当たっていく構成の妙にも僕は拍手を送りたいと思います。止まらなくなるんです。一話2000字から3000字だと仮定して九話、決して楽に読める文量じゃないのにとにかくスクロールする手が止まらない。それも駆け抜けたくなる感じじゃないんです。一行一行噛みしめながら指を動かしたくなる。そんな作品です。

一読してください。損はしないことを約束します。

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