艶やかな描写が美しい作品です。

大正時代ぐらいの雰囲気の和風ファンタジー。
舞い散る桜の花や、女袴姿の縫が自転車で走る夕暮れの町並みなど、目に浮かぶように鮮やかな風景の描写が秀逸。
着物の描写も丁寧で、控えめで地味そうな印象の縫がとてもお洒落で、それは彼女の乙女心の表れなのだろう、と思ったり。
彼女が愛しい人の為に用意するご飯も美味しそう。いい匂いのする湯気が、ふわっとこちらまで漂ってくるような。

まわりから「汚い色」といわれる心珠を持って生まれた縫は、それだけで家族からも疎まれ、年頃になってまとまりかけた縁談も破談になったり、なかなかにつらく暗い過去を持つ女性です。

美しい情景描写と何処か暗い縫の過去、支えてくれる同居人の安利との艶やかな描写…どれもが綺麗に混じり合って、破綻なくまとまり、短編ながらも深みのある世界観が魅力的です。

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