第9話 冬休み

 無事に文化祭も終わり、わたしはテスト結果の表とにらめっこしていた。

「学年順位、三十二位か……めちゃくちゃがんばったのにな~」

「いいな~、三十二位。うちなんか柔道部で疲れてて、授業中寝てるけど三十五位だよ? それに比べたら、いい方だよ! 夏海は」

 高校二年の十一月は進路を決めとかないといけない時期を過ぎていた。

 柔道部の女子主将で中高で全国制覇した、詩音ちゃんは東京の柔道部が強い大学から、スカウトが来るという。

 でも、本人は地元に残って、体育の教師になりたいと思っているみたい。

「えっと、中高の体育の教師になりたくて。教職課程を取らないといけないけど……絶対に教師になってみせる」

「できるよ。きっと、体育の先生か。似合うよ! わたしなんか全然決めてなかったから、焦ってて」

「でもさ、夏海、文学部のイタリア語学科に行けば? あそこだったら、イタリア語と文化が学べるし、イタリア語の教職課程を取れば、海が丘学院の中高の先生に就職することができるよ」

 海が丘学院は選択科目にイタリア語があって、先生がイタリア語の教職課程を取ってるんだ。

「決めた! 海が丘学院大学文学部のイタリア語学科にする。これだったら、就職とかも大丈夫そうだしね」

 詩音ちゃんは笑って、テレビをつけた。



 寮の部屋のドアのポストに手紙が入っていた。東京の住所が書かれてて、誰からなんだろう? と思ってたけど、差出人の名前を見て、びっくりした。

 ――東海林しょうじ和紗かずさ・マリアンナと書かれてある。

 東海林さんはわたしと前の学校で同じクラスだった。

 わたしと凪をいじめていたグループのリーダー格の子だったけど、寄付金の多い東海林家の一人娘ってこと、大企業の社長令嬢だということで、わたしが転校するまで処分が下されることがなかったの。

 そんな彼女が手紙を送って来るなんて、最近めっきり減ったフラッシュバックが起こるんじゃないかと、不安になった。

 封筒を開けて、三枚の便せんを開く。

『城沢夏海さま……』

 手紙の内容は、わたしが転校してからのことだ。

 東海林さんはあれから、学校での調査委員会ができ、そのときに事情を聞かれた。

 正直に話し、両親にも伝わったという。

 そして、両親は愚かな行いをとった娘に罰を与えるかのように、イギリスの寄宿学校に転校させたのだ。

 向こうでの生活はとてもつらいという。

 自分のことを全てしなければならないからだ。

 わたしは手紙を勉強机の引き出しの奥にしまった。

 もう、前の学校とは関係がない、自分の道を歩く。


 少しずつ寒くなってきた。

 二学期の終わりになった。

『瑠果くん、相談したいことって?』

 瑠果くんから、久しぶりにメッセージが来た。

『冬休みさ、夏海とどっかに行きたくて…、東京に行けるなら行きたいんだけど。大丈夫そう?』

『うん。いいよ、瑠果くんとどっかに行ってみたいもん。東京都内だったら案内できると思う。大丈夫だから、心配なくていいよ』

『ありがとう』

 東京観光をすることになり、おばあちゃん家に一旦向かって、瑠果くんと合流することを決めた。













 冬休みが始まった。

 わたしは早く帰ることにしていた。

 新幹線で熱海駅まで向かう。

 こんなに早く会いたいと思ったかな?

 熱海駅に着いて、荷物を持ってホームに降りる。

 瑠果くんがちょうどホームに上がってきた。

「瑠果くん?」

「夏海!」

 力強い腕に肩を抱き寄せられる。

「間に合った……久しぶり」

 心臓がバクバクいってて、なかなか落ち着かない。

「うん。久しぶりだね、瑠果くん」

 瑠果くんは手を繋いで、早足で歩いていく。

 繋がれた手から心臓の鼓動が伝わってくる。



 おばあちゃん家に来ると、わたしはもう寝ることにした。

 来たのが、夜八時だったし。

「瑠果くん、迎えに来てくれて、ありがとう」

 わたしがそう話すと。

 瑠果くんがびっくりした表情で、こっちを見ている。

 瑠果くんに会えてよかった。

 こんなに幸せな気持ちになれる。

 すぐに寝て、朝の新幹線で東京へと向かう。




 翌日に東京へと瑠果くんと一緒に向かった。

 両親にも話しててたので、大歓迎で東京駅に迎えに来てくれていた。瑠果くんが得意としているチェロの演奏をしていたの。

「瑠果くん! かっこいい。」

「ありがとうございます、夏海、東京案内できるる?」

「うん。いいよ、瑠果くん」



 わたしは夜景のきれいなお台場に行くと、瑠果くんは注目の的だ。

 ダークブラウンの髪に琥珀色の瞳をして、整った顔立ちをした瑠果くんは、今日渋谷に行ったけど、モデルのスカウトされていた。

 そんなのは全然興味がないらしく、わたしと一緒に歩いていく。

「瑠果くん、見て。これ!」

「わぁ……きれいだな、夏海」

 ギュッと瑠果くんに抱きしめられる。

 ドキドキしている。

「夏海」

 瑠果くんの方に顔を上げると、視線がぶつかる。

 そして、唇が重なった。

 一瞬、意識が飛びそうになった。

 瑠果くんが顔を離すと、顔を真っ赤にして、そっぽを向いている。

「る、瑠果くん? いまの……」

「めちゃくちゃ、恥ずかしい」

 その日の夕方に瑠果くんは、新幹線で熱海に戻った。

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