第5話 変わっていく
凪と一緒にお昼を食べてからわたしは、近所の防波堤に行った。
「きれいだね~、心が洗われそう」
「じゃんじゃん洗ってもらって~!」
「夏海……アハハハ! 相変わらずだね!」
思い出し笑いで凪もつられて笑い始めた。
笑いすぎて呼吸困難になってしまった。
笑いの発作を抑えて、二人で写真を撮った。
とても素敵な景色で写真を撮ることができて良かった。
夕方、誕生日会の準備が進んでいた。
わたしはお気に入りの白のワンピースを着ていて、髪を凪にセットしているの。
「ハーフアップで、編み込んでいくのでいいよね? 夏海が好きなヘアスタイル」
「うん。ありがとう。凪、これでOK?」
凪はTシャツにハーフパンツのラフな服装でいた。一回戻って、こっちに来てくれたの。
「まだまだ、これからよ。美人さんにしてくからね」
メイクセットを取り出して、凪はわたしの前にいく。
凪はメイクをするのが上手くて、ヘアメイクアーティストを夢見ている。
「できた! これでいいよ」
手鏡を出して、わたしの方を見る。
少しだけど、とてもきれいに見える。
「ありがとう! 凪、これでOKだよ」
凪との関係はいじめに遭う前に戻っていく。全然、東京にいた頃と変わらない。
「凪、これからもよろしくね」
「うん。こちらこそ」
二人で居間に向かう。
そこには瑠果くんとおばあちゃん、凪が座っていた。
「パッピーバースデー! 夏海!」
「誕生日おめでとう、夏海ちゃん」
「おめでとう。夏海」
三人がそれぞれ、言ってくれた。
「ありがとう! みんな」
ケーキや夕飯を食べると、プレゼントの贈呈が始まった。
おばあちゃんからは新しい浴衣。
青地に黒の縦ラインと模様が入ったもので、レトロで少し大人っぽい。
「夏海ちゃんが来る前から縫ってたの。かわいいし、夏海に似合うと思うよ?」
わたしはとても気に入って、来年の花火大会にはこれを着ていきたい。
「似合うね、夏海ちゃん」
「いいな~! 夏海、うちのはこれね!」
凪が渡してくれたのは、青と黒の髪飾りだった。
まるで浴衣と同じような色合いで、セットで合わせたかのようただった。
わたしも凪の誕生日に渡そうとしたものがある。
「凪、わたしからはこれね。イヤリング」
「ありがとう! きれいだね」
「うん。探した甲斐があったよ。たまにつけてね」
「うん。つけてみたよ?」
青のイヤリングは、凪の雰囲気によく似合ってる。
誕生日会が終わって、凪はおばあちゃんが迎えに来ていたから、そのまま帰ってしまった。
おばあちゃんがやって来て、瑠果くんが呼んでいるみたいだった。
わたしは離れに行ってみた。
瑠果くんは学校の宿題をしているみたいだった。
「夏海……、ごめん。呼び出しといて」
「いいの、おばあちゃんから、差し入れの麦茶とアイスバー」
瑠果くんはアイスバーの袋を開けて、少し休憩するつもりみたい。
「この味。イタリアに帰ると、食べられないな~」
「フフ……あと、瑠果くん……。ありがとう、今日は」
「うん。そう言えば、その子とはどうなった?」
「全然大丈夫だった、向こうも元気そうで良かった。いま、母方のおばあちゃん家に遊びに来てるんだって!」
「そうか……良かったな」
そう言ったまま瑠果くんは、アイスバーを食べ終えた。
「夏海、ばあちゃんにありがとうって言っといて」
言うのはいましかないと思った。
「あのね……瑠果くん」
なかなか言えなかったことだ。
「瑠果くんのことが好き」
「えっ?」
気がついたときには、顔が暑くなってしまった。
お互い、顔を赤くして、黙ってしまった。
どれくらいの時間が経ったか。
瑠果くんが口を開いた。
「ほんとか? 夏海」
「うん……、すぐに好きになった」
「ほぼ、一目惚れかよ……照れるな」
瑠果くんと見つめ合う。
「これから。夏海、よろしくね」
そして優しく微笑んだ。
わたしもつられて笑ってしまう。
柱時計が十一時を伝えた。
「もう寝ます」
「そんな時間か……十一時」
「そうだね……。戻るよ」
「おやすみ」
部屋に戻ると、心臓が速く波打っている。
わたしはそのまま夢の中に行った。
悪い夢は見なかった。
それからは瑠果くんの学校もわたしの誕生日が過ぎてすぐに夏休みが始まって、補習とかに追われるみたいだった。
わたしはあれから、凪と会うようになった。LINEもしょっちゅうするしね。
彼女に再会できてから、過呼吸やフラッシュバックも嘘のように起きなくなっていた。
それを父さんが主治医の先生に話すと、喜んでいるみたいだった。
一方、なかなか学校と取り合えないらくて、最終手段のことについて話した。
それは転校することだった。
切り出したときに、なんて言われるかとヒヤヒヤしたけれど。
「夏海が好きな学校に行きなさい。転校しようか」
と、言ってくれた。
「うん。東京の学校は……あんまり好きじゃないから、県内で全寮制の学校があるでしょ?」
「うん。そこなら、安心ね。偶然、父さんともそこにしたらって、話が上がってたのよ」
「わかった、編入学試験を受けたいから、そっちから連絡してほしい。あと、生んでくれて、ありがとう!」
そう言って、わたしは電話を切った。
その学校の見学にも行った。
海が丘学院――私立で中学から大学まである全寮制の学校で、瑠果くんによると県内でも有名な私立の進学校だという。
「夏海の成績だったら、行けるんじゃね?」
「そうかな? でも、いい学校だった」
学校からもらっていた課題をすぐに終わらせ、編入学試験のための勉強を始めた。
両親には東京の学校に転学届けを出してもらった。
「よし、行ってきます!」
高等部二年生に編入学するため、試験で問われるのは、高校のいままでの範囲だという。
編入学試験はとても緊張した。
高校受験のとき以来かもしれなかった。
他にも試験に来ていた人もいるけれど、ほとんどが中等部の編入学を希望する生徒みたいだった。
試験を終えて、ホッとして家に帰った。
試験の結果は今度の月曜日にわかる。
そして翌週月曜日の午前中。
「夏海。これ、来てた」
わたしはすぐに速達で来た封筒を開封した。
「ばあちゃん、あの封筒は?」
「夏海ちゃんが海が丘学院の編入学試験を受けてね。その通知書が今日、届くことになってたの」
「あぁ、あの結果」
わたしはすぐに電話をかけることにした。
「もしもし? 母さん! 合格した!」
母さんは泣いてるみたいだった。
代わった父さんと話して、夏休みが、終わる一週間前に一旦東京に戻って、入寮の支度することにした。
「夏海。よくここまで、強くなって」
「うん。ありがとう、父さん。じゃあね、また」
電話を切ると、瑠果くんは笑ってハイタッチをしてきた。
「おめでとう! 海が丘に受かるなんて、スゲーな! 必死だったろ?」
「うん。ありがとう。数学、教えてもらったとこがまるまる出てて焦った」
「それじゃあ、寮に引っ越しか」
「うん……明後日に一旦、東京に戻って入寮の準備をする」
「明後日か……かなりハードスケジュールだな」
苦しむことはなくたったけれど、東京に戻ってまたフラッシュバックが起こるんじゃないかと不安だった。
でも、そんな心配することをやめた。
自分の道を歩くだけだ。
ここに来てから、取り巻く環境が変わった。
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