第3話 心が壊れた日
「わたしと凪は小学校から一緒で、凪が中学受験して先にその学校に通っていて、わたしも猛勉強して高校に推薦合格することができた」
「幼なじみなんだ? それで?」
瑠果くんに話したのは、そのあとのことだった。
高校は小学校から高校まである私立女子校のなかでは名門と言われるもので、憧れる生徒も多い。
入学したときから、卒業までをそのまま同じクラスで過ごすことも有名だった。
いじめの最初のターゲットは、高校一年生のときだ。
凪の陰口を言っていて、そこからクラス全員で無視を始めたのだ。
わたしも表向きは参加するけれど、裏では凪と話したりしていた。
「夏海、ありがとう。わたしといなくても良いのに、今度は夏海がターゲットにされるよ?」
「大丈夫、そのときはそのときだよ? 凪。わたしは何とかするから」
凪はそれからも、いじめられていた。
しばらくして、凪が休学してからすぐに、わたしは黙って凪と話している所を見ていたクラスの子が、リーダー格のグループに話が伝わってしまったのは、高校一年生の冬のときだった。
わたしは一年生の冬頃にターゲットを向けられて、今度は自分に凪が受けたのと同じことを繰り返された。
「へぇ……。凪と一緒にやってくれる?」
凪は美しい黒髪を持っていて、背中のなか程まであった髪を高い位置で結っていたけど。それをクラスの子に切られたのだ。
わたしはそのことを見捨ててしまった。それ以降、彼女に会っていなかった。
「断髪式、今度はこいつの髪だよ! 凪よりは切り応えはなさそうだけどね」
「やめて! お願い!」
わたしは肩よりも少し長めの髪を結っている。
クラスのリーダー格の子が、ハサミを持ってきた。
ジャキっと、音を立ててわたしの髪は切られたのだ。
「アハハハハハ!! まだ、懲りてないんだよ!」
甲高い声が教室中に響いていく。
そのとき、心のどこかが壊れた音がした。
全然大丈夫でもなかった。
その日にわたしは下校するときに、校舎の階段から突き落とされ、そのまま病院に向かったのだ。
瑠果くんに話していると、もう不安になることがなくなっていく。
「その日にわたしはPTSDになっていた。心的外傷後ストレス障害って、知ってるよね?」
「うん。知ってる。災害やいじめ、事故、親からの虐待などの精神的なトラウマ……とてもつらい経験をして、フラッシュバックを起こしたりすること、だっけ?」
「それに、なってて、もう学校に行くことすらできなくなって、両親に伝えるとすぐに休学届を、出してくれたの。いまは、話をしてもらってる。証拠も両親に託しているから」
わたしの心はすぐには治るようなものではない傷を負った。
遠くに沈む夕日はそんなことを知らずに、もうすぐ夜になる時間帯だと思う。
悲しくなってきた。
「瑠果くん……わたしは、凪を、見捨てたの。全然会ってないし、彼女の家も引っ越してるから……会えてないの。精神的に、わたしは」
――殺したのと、同然だ、と言おうとしたときだ。
「夏海は悪くない」
落ち着いているけど、瑠果くんの怒りの感情が込めた声が話した。
「友だちのために行動したのに、自分のように責めてほしくない。これから、また会えるはずだよ」
瑠果くんが優しく手を重ねてくれる。それがきっかけで、また涙が溢れてくる。
しばらくして、泣き止んだのを待っていたのか、瑠果くんが立ち上がる。
「帰るぞ。夏海」
手を差しのべて、言ってくれた。
「うん」
手を握ると、わたしは立ち上がる。
優しくて、力強い手だった。
ただ手を握っただけなのに……なんか、ドキドキする。
マンガとかで読んだことのあるような、ドキドキがわたしにも起きたのかな?
わたしはその後、瑠果くんのことが好きだとわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます