第三章 新しい生活

第7話 新生活

「海が丘学院にようこそ」

 車で到着したところは街の高台にある学校の校門を入って、右手の奥にある高等部女子寮。

「城沢夏海さんですね。遠くからいらっしゃいました。寮を案内します、ここの寮を担当している多田と言います」

 多田先生は二十代後半でここの卒業生ということを教えてくれた。

「ここの寮には高等部の女子学生が暮らしています。高等部の女子寮は他にも蒼穹そうきゅう寮、澄清ちょうせい寮の二つありますが、城沢さんが暮らすのはあかつき寮だよ」

「空を表す言葉が寮の名前なんですね?」

「そうね。中等部と高等部の女子寮は空を表す言葉が寮の名前になっているの」

 二階の突き当たりに案内されて、わたしは少し緊張してきた。

 206号室のプレートの隣には、この部屋に入居する生徒の名前のプレートが表札みたいにはめられてて、マンションにいるみたいだ。

「寮は中等部と高等部、男女共に卒業するまでは同じ寮、同じ部屋で過ごします」

 多田先生がドアをノックする。

「多田です。入寮生を連れてきました」

 ドアを開けた子はショートカットの髪がよく似合うスポーティーな感じな子で、初めて会ったのに全然大丈夫そうだった。

 先生が帰ると、二人きりになる。

城山しろやま詩音しおんです。わたしは熱海から来たの。ここには高等部からいるよ」

 詩音ちゃんはとても人懐っこい笑顔が素敵な子だ。

「わたしは城沢夏海です。東京から来たの。夏休みはおばあちゃん家のある熱海にいたの」

「え! 凪ちゃんの友だちだよね?」

 詩音ちゃんがびっくりしている。顔立ちとかも凪にそっくりだ。

「え? 凪の親戚なの?」

「うん。そうだよ、凪と一緒の学校に行ってて、優しくて、良い子だって!」

「凪……照れくさいこと言うな~!」

 詩音ちゃんと意気投合して、部活のことを教えてくれた。

「ちなみに、うちは柔道部。ここは強豪校で、中学時代は全国制覇したこともあるの」

「柔道部!? うそでしょ?」

 そのとき、スマホの通知が来た。

 瑠果ルカくんからのメッセージだった。

『元気? 海が丘学院の寮に着いたくらいだろ?』

『うん。そうだよ! 城山詩音ちゃんとルームメイトになったし』と、送ったとき、詩音ちゃんに見られた。

「あれ? そのLINE……瑠果のじゃん。どうした?」

「え? うん。おばあちゃん家に暮らしてて、仲良くなったの」

 詩音ちゃんは瑠果くんとは中学の同級生ということを教えてくれた。

「え~と、夏海ちゃんが瑠果と、付き合ってんの?」

「え…………瑠果くんと付き合ってんのかな? わかんない」

「はぁ!? わかんないって……どういうこと?」

 荷物をしまうのを手伝ってくれてる詩音ちゃんが、ハテナがついているような顔をする。

「だって……瑠果くんとは両思いだけど……そこまでは、いってないような気がするよ?」

「瑠果……アイツ、モテてたけど、全然興味無さそうにしてたのに。彼女、できちゃって~」

 すると、寮長があいさつをしに来てしまったみたい。

衣李奈イリナ寮長が来たか……」

「初めまして、城沢夏海ちゃん。暁寮の寮長をしている二年の杉野です」

「はい。よろしくお願いします」

 寮長が代替わりしたのかな? そうだよね。

「楽しい寮生活を送ってください」

 衣李奈ちゃんが帰ってから、わたしと詩音ちゃんはホッとする。

「衣李奈ちゃん、きれいだよね?」

「うん。衣李奈はクオーター、父親がロシアとのハーフだからね。その隔世遺伝が起きてるんだって」

 だから、明るい茶色の瞳、ハーフ顔なんだよね。

 詩音ちゃんに明日の一通りのことを聞いたので、そのまま寝ることにした。

 二段ベッドの下の段に潜り込んで、カーテンを閉める。

 こっそりとスマホのLINEで、瑠果くんのメッセージがそのあとも来ていたのを、確認した。

『元気にがんばれよ』

『うん』

 そのまま、寝てしまった。



 翌朝、五時半に起きてから、すぐにスクールバッグに入れた教科書とノート重く感じる。

 わたしは海が丘学院で新しい生活がスタートした。

 白のセーラーワンピースに襟と袖口、スカートには青の一本線が入っている。わたしは詩音ちゃんと食堂へと向かった。

 衣李奈ちゃんは静かにしている。

「おはよう。詩音ちゃん」

「衣李奈。おはよう……朝練があるから、わたし行くよ! 女子主将なんだよね」

 わたしはすぐに朝ごはんを食べて、寮の玄関に向かった。

 自分の下駄箱にある黒のローファーを出して履くと、玄関のドアを開けた。



 学校での生活は全然苦しむこともなく、全然気が楽な感じがする。

 それに、友だちも増えた。

「紗良はどこから来たの?」

「うち? 名古屋。ここから新幹線で行った方が速いよ」

 竹野紗良ちゃんは名古屋から来ていて、中等部からいて、吹奏楽部にいるんだって。

 わたしがアルトサックスを習ってることを話したら、部活に見学しにし来てほしいと言われてしまった。

「吹奏楽部と違って、音楽部っていうやつで、ちょうどアルトサックスの奏者を探しててね~、夏海ちゃんのサックスを聞かしてくれる? お願い!」

「いいよ、わたし、寮にアルトサックスを持ってきてるから」

 わたしは放課後、アルトサックスを持って、紗良ちゃんの部室に行った。

「いらっしゃい! 夏海ちゃん」

「うん。アルトサックスの演奏……聞く?」

 わたしは得意な曲の『情熱大陸』を演奏して、アルトサックスの音色に合わせて、みんなが演奏に加わる。

 紗良ちゃんはバイオリンを弾き始めた。

 とても楽しかった。音楽部に入部することにした。






 寮に帰ると、瑠果くんからメッセージが来ていたのだ。

『元気? そっちで上手くやってる?』

 心配性みたいで、少し笑ってしまった。

『元気だよ! 音楽部に入部したの。アルトサックスの奏者をするよ』

と、返事をした途端、メッセージが来た。

『そうか』

『うん。アルトサックス、瑠果くんはピアノ練習、してる?』

『してる。伴奏はなんとか弾けるけど、少しだけ突っかかる。楽譜は見てるよ』

『慌てずに弾いた方がいいよ』

『ありがと、参考にしてみる』

 瑠果くんからのメッセージは、それ以降はなかった。


 夕飯を食べて、お風呂に行ったあと。

 詩音ちゃんが柔道部から帰ってきた。

「あ~。疲れた~!」

「おかえりなさい、詩音ちゃん。部活、大変だね」

「そうでもないよ。まだまだたくさん練習あるからね。すごく楽しいけど、つらい」

 わたしは備え付けのテレビをつけた。

 詩音ちゃんがすぐに夕飯と入浴を済ませると、テレビを見て寝ることにした。

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