死体の記憶を見ることができる少年が、逃亡の果てに知った事実。

死体を火葬して生活する少年の物語。

といっても、ホラーではありません。
グロテスクな描写もなく、安心して読むことができます。

序盤は淡々とした文章で、少年の仕事の様子や生活の様子が語られます。
まるで海外の生活のドキュメンタリー小説を読んでいるようなリアルさがあります。

「火葬人」はあまり良い仕事ではないらしく、少年はまるで世界の隅っこでひっそりと暮らしているかのような印象を受けます。
それでも彼はひとつひとつの遺体に敬意を示し、祈りを捧げながら丁寧に仕事をこなすのです。

この少年には特別な能力があります。
ひとつは炎を操れること。
もうひとつは「死体の記憶を視ることができる」というもの。
彼が視た記憶の中に不可解な情報が紛れていることが物語の発端といってもいいかもしれません。
また、少年の過去も不明な点が多く、その部分ものちに驚くような展開へとつながってゆきます。

そして、いろいろなことが起こります。
嬉しいことも楽しいこともあれば、残酷な事件やそれ以上に酷いことも起こります。ときには胸を抉られるような事実と向き合う場面もあります。
特に「記憶を視ることができない死体」の事実が明らかになったときはゾッとしました。

主人公にとっては辛いことがたくさん起きますが、それでも彼を取り巻く周囲の人がすべて優しく、しっかりと寄り添ってくれます。
それは少年の無垢な性格がそうさせているのだと思います。

序盤、主人公は世間知らずで頼りない子どものように見えます。
しかし、物語の中でいろいろなことを知り、最後は自分で考えてひとつの道を選ぶことになります。

得るものも失うものも多い物語の果てに、静かなラストが余韻となって心に残りました。

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