無垢なる紫炎が哀しみを焼き溶かす。世界を識り愛を謳う、幻想的な冒険譚。

丁寧に織られた世界と、そこに生きる一癖も二癖もある人物たち、そして緻密に組み立てられたストーリー。ハイやローという区分がなされる前の懐かしきファンタジーを思い出させる、幻想的な物語です。
仄暗く淡々とした筆致に統一された文章は、どこか童話風の懐かしさをも感じさせてくれます。

人間の住む世界と隣り合わせの(だが隔たりも深い)世界に神や妖精が住み、気まぐれに人へ干渉する。
生者の世界と冥府が近く、生の背後へ常に死が忍び寄る。
そんな世界で「火葬人」として生きる少年イルルクは、当人も知らぬ間に動き出していた陰謀の渦に巻き込まれ、数人の仲間たちと逃亡者として外の世界へ飛び出すことになるのです。

見知らぬ町、見たことのない生活、はじめて触れる知識。
魔術師や不思議な生き物、妖精や神々。
そういった「新たな世界」が、イルルクを少しずつ変化させ、成長させてゆきます。

積み重ねられた伏線と少年の成長が一気に開花する後半の展開は、胸を抉る哀しみと絶望、そしてそれを凌駕する愛と友情の物語。まるで神話のような世界の変化を見届けられて、満足感と幸せを感じられる読後感でした。
完結済の10万字で、文庫本一冊ほどの量です。ぜひ一気読みして、この物語世界に浸ってみてください。

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