死体を火葬して生活する少年の物語。
といっても、ホラーではありません。
グロテスクな描写もなく、安心して読むことができます。
序盤は淡々とした文章で、少年の仕事の様子や生活の様子が語られます。
まるで海外の生活のドキュメンタリー小説を読んでいるようなリアルさがあります。
「火葬人」はあまり良い仕事ではないらしく、少年はまるで世界の隅っこでひっそりと暮らしているかのような印象を受けます。
それでも彼はひとつひとつの遺体に敬意を示し、祈りを捧げながら丁寧に仕事をこなすのです。
この少年には特別な能力があります。
ひとつは炎を操れること。
もうひとつは「死体の記憶を視ることができる」というもの。
彼が視た記憶の中に不可解な情報が紛れていることが物語の発端といってもいいかもしれません。
また、少年の過去も不明な点が多く、その部分ものちに驚くような展開へとつながってゆきます。
そして、いろいろなことが起こります。
嬉しいことも楽しいこともあれば、残酷な事件やそれ以上に酷いことも起こります。ときには胸を抉られるような事実と向き合う場面もあります。
特に「記憶を視ることができない死体」の事実が明らかになったときはゾッとしました。
主人公にとっては辛いことがたくさん起きますが、それでも彼を取り巻く周囲の人がすべて優しく、しっかりと寄り添ってくれます。
それは少年の無垢な性格がそうさせているのだと思います。
序盤、主人公は世間知らずで頼りない子どものように見えます。
しかし、物語の中でいろいろなことを知り、最後は自分で考えてひとつの道を選ぶことになります。
得るものも失うものも多い物語の果てに、静かなラストが余韻となって心に残りました。
イルルクって男の子が火を操れる訳ですよ。
なんかこうちょっとぽややんとした所のある子でね、マフィアに保護されて火葬人の仕事をしている訳です。まぁボスとかに大切にしてもらっていてね、それはもうかわいがられているの。愛され系って奴ですかね。
けどまぁ、可愛い子には旅をさせろというもので。
やっぱ火を操れるのってちょっとなんかあるよね、ヤバイよね、というか火葬した時にその人の死んだ直前の景色とか見えるんだよね、ヤバイよね、という感じにヤバみが加速して行き、いつの間にやら街を出て旅に出る。
行く先々でいろいろなものを見聞し、世界を広げ、そして自分が何者であるかということに向き合っていくことになるイルルク。
彼が、最終的にたどり着いた場所は、そして彼の秘密は――。
ひとこと紹介に書いた通りだYO!!(ひでえネタバレレビュー)
神話というのは人類史に紐づいて、その信仰地域の価値観やら生活観はもとより死生観さえも反映したものだと僕は捉えています。そういう所に近代的な価値観(マフィアだとか)やファンタジー(魔法)、またシリアスさ(割と展開がえぐい)を持ち込んで、成立させるのはなかなかセンスが要求される内容かなと感じています。そういう意味で、作者さんのセンスが存分に出ている作品ですかね。
ちょっと変わった新しい神話。
近代的で、残酷で、けどやさしい神話。
そういうの好きな人には刺さると思います。
丁寧に織られた世界と、そこに生きる一癖も二癖もある人物たち、そして緻密に組み立てられたストーリー。ハイやローという区分がなされる前の懐かしきファンタジーを思い出させる、幻想的な物語です。
仄暗く淡々とした筆致に統一された文章は、どこか童話風の懐かしさをも感じさせてくれます。
人間の住む世界と隣り合わせの(だが隔たりも深い)世界に神や妖精が住み、気まぐれに人へ干渉する。
生者の世界と冥府が近く、生の背後へ常に死が忍び寄る。
そんな世界で「火葬人」として生きる少年イルルクは、当人も知らぬ間に動き出していた陰謀の渦に巻き込まれ、数人の仲間たちと逃亡者として外の世界へ飛び出すことになるのです。
見知らぬ町、見たことのない生活、はじめて触れる知識。
魔術師や不思議な生き物、妖精や神々。
そういった「新たな世界」が、イルルクを少しずつ変化させ、成長させてゆきます。
積み重ねられた伏線と少年の成長が一気に開花する後半の展開は、胸を抉る哀しみと絶望、そしてそれを凌駕する愛と友情の物語。まるで神話のような世界の変化を見届けられて、満足感と幸せを感じられる読後感でした。
完結済の10万字で、文庫本一冊ほどの量です。ぜひ一気読みして、この物語世界に浸ってみてください。