紫の子

作者 南雲 皋

86

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★★★ Excellent!!!

死体を火葬して生活する少年の物語。

といっても、ホラーではありません。
グロテスクな描写もなく、安心して読むことができます。

序盤は淡々とした文章で、少年の仕事の様子や生活の様子が語られます。
まるで海外の生活のドキュメンタリー小説を読んでいるようなリアルさがあります。

「火葬人」はあまり良い仕事ではないらしく、少年はまるで世界の隅っこでひっそりと暮らしているかのような印象を受けます。
それでも彼はひとつひとつの遺体に敬意を示し、祈りを捧げながら丁寧に仕事をこなすのです。

この少年には特別な能力があります。
ひとつは炎を操れること。
もうひとつは「死体の記憶を視ることができる」というもの。
彼が視た記憶の中に不可解な情報が紛れていることが物語の発端といってもいいかもしれません。
また、少年の過去も不明な点が多く、その部分ものちに驚くような展開へとつながってゆきます。

そして、いろいろなことが起こります。
嬉しいことも楽しいこともあれば、残酷な事件やそれ以上に酷いことも起こります。ときには胸を抉られるような事実と向き合う場面もあります。
特に「記憶を視ることができない死体」の事実が明らかになったときはゾッとしました。

主人公にとっては辛いことがたくさん起きますが、それでも彼を取り巻く周囲の人がすべて優しく、しっかりと寄り添ってくれます。
それは少年の無垢な性格がそうさせているのだと思います。

序盤、主人公は世間知らずで頼りない子どものように見えます。
しかし、物語の中でいろいろなことを知り、最後は自分で考えてひとつの道を選ぶことになります。

得るものも失うものも多い物語の果てに、静かなラストが余韻となって心に残りました。

★★★ Excellent!!!

一般的なラノベとは一線を画す作品。
もちろん良い意味で、です。

本作は主人公イルルクの成長物語でもあるわけですが、それがまた実に波乱に満ちたもので、少しずつそれが解き明かされていく様が心地よいのでありました。

また、会話文「」の使用が極力抑えられており、地の文でぐいと引き込んで想像力を働かせて読ませるスタイルの作品と感じました。
かといってテンポが損なわれるわけでもなく。

具体的なネタバレは控えますが、イルルクは凄い奴です。
もう末永く爆発してください。

★★★ Excellent!!!

人の生き死にについての描写があります。
ハリーポッターくらいのダークな感じが大丈夫なら、この物語も楽しく読めると思います。

主人公のイルルクがとっても無垢で可愛らしいです。なのに過酷な運命に翻弄されて……
ハラハラしながら読みました!

細かい描写の中にも、ファンタジー感がこれでもかと散りばめられていて、映像で観てみたいと思うシーンがいくつもありました。

魅力的な謎や魔法がいっぱいで、ファンタジー好きには楽しい作品だと思います♪

★★★ Excellent!!!

 イルルクって男の子が火を操れる訳ですよ。
 なんかこうちょっとぽややんとした所のある子でね、マフィアに保護されて火葬人の仕事をしている訳です。まぁボスとかに大切にしてもらっていてね、それはもうかわいがられているの。愛され系って奴ですかね。

 けどまぁ、可愛い子には旅をさせろというもので。
 やっぱ火を操れるのってちょっとなんかあるよね、ヤバイよね、というか火葬した時にその人の死んだ直前の景色とか見えるんだよね、ヤバイよね、という感じにヤバみが加速して行き、いつの間にやら街を出て旅に出る。
 行く先々でいろいろなものを見聞し、世界を広げ、そして自分が何者であるかということに向き合っていくことになるイルルク。
 彼が、最終的にたどり着いた場所は、そして彼の秘密は――。

 ひとこと紹介に書いた通りだYO!!(ひでえネタバレレビュー)

 神話というのは人類史に紐づいて、その信仰地域の価値観やら生活観はもとより死生観さえも反映したものだと僕は捉えています。そういう所に近代的な価値観(マフィアだとか)やファンタジー(魔法)、またシリアスさ(割と展開がえぐい)を持ち込んで、成立させるのはなかなかセンスが要求される内容かなと感じています。そういう意味で、作者さんのセンスが存分に出ている作品ですかね。

 ちょっと変わった新しい神話。
 近代的で、残酷で、けどやさしい神話。

 そういうの好きな人には刺さると思います。

★★★ Excellent!!!

丁寧に織られた世界と、そこに生きる一癖も二癖もある人物たち、そして緻密に組み立てられたストーリー。ハイやローという区分がなされる前の懐かしきファンタジーを思い出させる、幻想的な物語です。
仄暗く淡々とした筆致に統一された文章は、どこか童話風の懐かしさをも感じさせてくれます。

人間の住む世界と隣り合わせの(だが隔たりも深い)世界に神や妖精が住み、気まぐれに人へ干渉する。
生者の世界と冥府が近く、生の背後へ常に死が忍び寄る。
そんな世界で「火葬人」として生きる少年イルルクは、当人も知らぬ間に動き出していた陰謀の渦に巻き込まれ、数人の仲間たちと逃亡者として外の世界へ飛び出すことになるのです。

見知らぬ町、見たことのない生活、はじめて触れる知識。
魔術師や不思議な生き物、妖精や神々。
そういった「新たな世界」が、イルルクを少しずつ変化させ、成長させてゆきます。

積み重ねられた伏線と少年の成長が一気に開花する後半の展開は、胸を抉る哀しみと絶望、そしてそれを凌駕する愛と友情の物語。まるで神話のような世界の変化を見届けられて、満足感と幸せを感じられる読後感でした。
完結済の10万字で、文庫本一冊ほどの量です。ぜひ一気読みして、この物語世界に浸ってみてください。

★★★ Excellent!!!

異世界ファンタジーといっても、作者が練り込んだ独自の世界観であり、そこに生きる人々の息遣いまで聞こえて来そうな完成度とこころよい重さを伴っています。

そして、特筆すべきはイルルク視点の少年らしさ。おそらく一般社会から差別の眼差しに曝されて来ただろう少年がもつピュアさや、未熟さ、不安、小さな恋心、そういうものが繊細に織り込まれてひとつの人格が立っており、見事というべき仕上がりです。

未読の方はぜひ、この世界観と少年の美しさに触れてみてください。

★★★ Excellent!!!

恐らく生まれつき持つ炎の魔術で、死体を火葬する少年イルルク。
親も知らず、墓地で暮らし、他者からは蔑まれるが、
少数の彼を大切にしてくれる者や友がいて、
このままの日々が続けばいいと思っていた。ずっと。

トップページの完結済み長編の欄で見かけて、
気になって読み始めました。
私がゲド戦記とか読み耽った中学生の頃に、
図書室に並んでてほしかったタイプの
児童書異世界ファンタジーだと思います。
読了して、読んで良かったと幸せな気分になりました。
炎神さまが自由すぎる(笑)。
有難うございました。

★★★ Excellent!!!

綺麗な文章で読み手に情景を想起させる言い回しは読んでいてい気持ちのいいものでした。

地の文が多めなのは、会話でなく周りの状況や感情で事態を描こうとしている作者様の意図なのでしょうか、見事にハマってしまいました。

未だ未だ先が長そうな物語ですので、先が気になります。

★★★ Excellent!!!

静かな文体と丁寧な描写でつづられる、どこか童話や絵本のような雰囲気を醸しだしているファンタジー。

魔法という存在が物語の主軸をしめながらも、きらびやかさよりも仄暗さを感じさせる雰囲気が、カクヨム内の他の多くのファンタジーものにはない味をだしている。

また、火葬人という職業や魔法の使い方からも他の作品にはない、オリジナリティが感じられました。