悪党には悪党をぶつけんだよ!

ある日突然に本拠地ごと異世界へと転移してしまった秘密結社『ジャクルトゥ』。そんな彼らの前に、異世界をもうじき完全支配しようとしている魔王『ラゴウ』が立ち塞がる――という、悪VS悪の非常に面白いテーマの作品でした。

正義のヒーローと日々戦う悪の幹部達がメインキャラということで、当然ながらどいつもコイツもクセが凄すぎ・個性が強すぎといった塩梅で、実にインパクトがありました。
それでいて大雑把な作風というわけでもなく、異世界の情勢や魔法の設定など、細部にまでこだわって書かれているのだろうなと感じられました。描写も丁寧であり、読んでいてそれぞれの心情や周囲の風景など、明瞭な彩度で脳内に浮かび上がってきました。
それが如実に表れているのが、それぞれの勢力のシーンだと思います。転移直後の混乱する場面でも的確に指示を出し&受け取り、状況を把握して各自の仕事を的確にこなすジャクルトゥの面々。
あるいは、現代兵器の威力や脅威を目の当たりにしても、仮説を立てて対策を練ってくる魔王ラゴウ陣営。
それぞれが悪でありながら『プロフェッショナル』という感じもして、どちらの勢力も魅力的でした。

ただその丁寧さは、逆を言うと『テンポの悪さ』にも繋がっていると感じました。
作品タイトルにある『秘密結社VS魔王軍』の盛り上がる展開に辿り着くまでが遅く、そして『悪の組織』要素が予想していたより少し薄いのも気になりました。
冒頭での神々の世界の物語、正義のヒーローとの対決、組織の面々の顔見せ、そして異世界に転移する……までに3~4話も使うのは、ちょっと余裕を持ちすぎている気がしました。多くの読者は転移前にリタイアする危険性があります。
更に、最初のゲシル村での戦い後、次に魔王軍と本格的に戦うのは、最新話のパティル城攻防戦まで待たないといけません。道中のボクドーの街での試験編などは、本当に必要なエピソードだったの? と感じてしまいました。
悪の組織の面々が、怪ロボットを操作してゴーレムを倒し、多種多様な怪人達が魔物と激しい戦闘を繰り広げ、謎の開発品や武器で魔法使いに対抗していく……そんな展開が序盤から繰り広げられるのを期待していたのですが、そこに至るまで結構長い道のりでした。

とはいえ、最新話ではようやく本格的な抗争となったため、ここからの盛り上がりに期待が持てます。
異世界に転移してきて戦うのは『ヒーロー』でも『自衛隊』でもなく『悪の秘密結社』なので、その辺の要素が前面に押し出され、展開が加速していくのに期待します。

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