Another Armageddon アナザーアルマゲドン 異世界に転移して来た悪の秘密結社 VS 世界征服寸前の魔王軍

Azrael

転移変

天界にて

 季節も時間も人間にはわからない。

まばゆいばかりに白く、無機質で、殺風景な空間にそれはあった。

それは見るもの次第でいくらでも認識が変わる。

子供達が見れば白亜の宮殿であり、おごそかな社と言う感覚を覚えた。

信心深い者が見れば禍々しい魔が集う城を想像する。


 奥に進むと美女と呼ぶに値する女性が座り込み、嘆き悲しんでいた。

その女性も見る人によっては少女や年老いた老婆の姿に見える。

しかし全ての人が美しい、愛らしいと必ず感じた。


 彼女は真っ白なトーガを身に着け、縁飾りには網目状の刺繍を施してあった。

膝を抱える様に座って目前に置かれた台座をただぼうせんと見つめている。

台座には宝珠がおかれており、ゆっくりと青白く点滅して輝く。

輝き嘆息する。


 別の方向からトーガを着た男が女性を見つけて、颯爽と歩み寄ってきた。


「我が妹よ、何を悲しんでおるのかね?」


男は緋色のトーガ姿で妹と呼ぶ女性の横に立ち、心配そうに尋ねる。


「兄様、父様から譲られた私の世界宝珠に大魔王を生み出してしまいました」


座ったまま女性は涙を流し、傍らの男を兄と呼んで告げた。


「ほう? 今度は魔王だと? 何時ぞやは天園あまつそのに入って来た狂気の邪神に襲われたと怯えておったが……」


 拍子抜けた兄と呼ばれた男は台座で点滅する宝玉を一瞥して呆れる。


「それが思いのほか強力で、全てを研究し、世界を手中に収めようとしております。お手本どおりに作った勇者や救世主も滅びました」


泣き出しそうな女性から状況を知らされた男は興味深げに尋ね始める。


「ほほぅ? この世界宝珠の持ち主の女神であるお前が……その魔王の目的はなんだ?」

「今、父様が争っていますあの狂気の邪神を倒すとか……」


 今、創造神軍神達が侵食する神々と抗争中である。

度々、外界や別宇宙の敵が天園に入り込んでは神々に害を及ぼしていた。

以前は此の女神女性を手籠めにしようとし、間一髪で助けられた事があった。


「ワハハハ、創造神である父様や我ら神々でも手を焼く狂気の邪神と争う? そなたに生み出された分際で何たる傲慢!」


 大声で笑いだした男はばっさりと吐き棄てた。

しかし女神は困り果てて話を続ける。


「でも、このままでは大魔王が……いつかは宝珠から外へ、ここ天宮に来てしまいます。私の力ではどうしようも……」


 無力さと恐怖におびえる妹を見て、はげますように笑顔で男は提案する。


「わかった、我が愛しい女神よ。私が力を、お前の宝珠に力を注ごう」

「ありがとうございます。兄様、どうするので?」


女神は泣くのを止めて兄と呼ぶ男の顔をマジマジと見た。


「私の宝珠から我が世界の軍勢を呼び寄せる」

「まぁ、兄様の?」


提案を聞いた泣き顔の女神が驚きの表情に変わる。


「ああ、そんな傲慢な魔王にはうってつけの相手だ、訳があって力を付けさせたい」


男は優しそうに笑みを浮かべる。

相手には善良な笑顔、他から見ればどす黒い笑顔がそこに存在していた。


「まぁ、どんな勇者? 救世主? 楽しみですわ。兄様お願いします」


 その邪な笑顔を見切れない女神は天真爛漫な笑顔で承諾する。


「では、私の宝珠に取りに行って来る。そなたは天園で遊んで参れ」

「ええ、そうさせてもらいますわ。兄様、ありがとうございます」


悩みをキレイに消失し笑顔になった女神は、立ち上がり兄に礼を言う。

そしてどこかへ鼻歌交じりで立ち去っていった。


「ああ、楽しみにしておれ……」


後ろ姿を見送った男は顔に浮かべた笑みを、一瞬だけ意味あり気なものに変えた。

そして踵を返して立ち去った。


 やり取りを柱の影に隠れてみていた二人の少年達が出てくる。


「おい、あの宝珠って!」


白いシャツとパンツ姿の浅黒い少年が慌てる。

隣にいる同じ装いで後ろ髪を束ねた少女が答えた。


「ええ、神々が自分の力のより所にするもので、創造神様が一柱に一つだけお渡しになられる大切なものだよ」


冷静に答える少女の額からは一筋の冷や汗が流れた。


「うん、それは僕も知っているよ。半神ハンパな僕らはもらえていないけどね」

「神々は宝珠の中でいくつもの世界をつくり、その世界の生物達に信奉してもらう事で力を顕現させる」


 少年のボヤキは無視し、点滅する宝珠を見上げて真剣な表情の少女は答えた。


「そこに力を与えるって出来るのかい? 僕、聞いたことはないよ?」

「うん、それはできない。ただ、乗っ取る事はできると聞いた」


少年は方法を聞くのが怖かった。だが、好奇心が勝ってしまった。


「ど、どうやるの?」


自然に声は小さく、ひそひそ話になっていく。


「自分の宝珠世界の生物を送り込み、すべて自分達と同じ神を讃えればいい。宝珠の中の生命が増えればそれだけ力が増す」


 少女は小声で答えてその行為と目的に恐怖した。


「ええ!? なら悪戯神の兄様は愛の女神様の宝珠を……」

「乗っ取るつもりだ!」

「なら、父様達に教えないと……」


 二人はその場から逃げ出そうとして気配に気が付き凍りつく。


「やはり、居たのかお前達」


 純真無垢な笑顔の悪戯神が背後に立っていた。


「こ、こんにちは、兄様」

「僕達に何か御用ですか?」


驚きをかくしながら二人は挨拶して逃げようとする。

いくら悪戯神でも弟達自分達に無茶な事はすまいと思った。


 その予想はあっけなく外れた。

二人とも襟首を掴まれる。

抵抗するひまもなく、悪戯神に渦巻く宝珠の中へ無造作に投げ込まれた。


「さて、始めるか」


 容赦なく弟達を放り込んだ悪戯神そうつぶやいた。

何事もなかったかのように両手をスチャッと宝珠にかざす。

その顔には好奇心に富んだ満面の笑みがあった。

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