まず文章は一つ一つの言葉を丁寧に書いていて、とても冷えている印象を与えます。
それが主人公の性格ととても合っていて良かったです。
軽い文章よりもこういう物語に真摯な言葉の方が好きな方も多いのではないでしょうか。
囲碁を通じて自由へと開放されていく主人公は等身大の人間として共感できます。
音楽を代表に実在の名称が出てきてそのことが作品のリアリティを高めています。
主人公はルーティンを行うのを日課あるいは、精神的な糧にしていますが、初めてのことを苦手に思う読者さんも多いと思います。
最初はバッドエンドかなと思いましたが、そうなるんだという納得できるエンディングになっています。
読者さん自身で確かめてみてください。
短編なので一気読みできるところもとても良い。
ときには長大な長編よりもデザートのような短編が、欲しいときもあります。
そういうときは恋愛という普遍的な要素を扱い、ストーリーを破綻なく展開させる、この作品を読むのがオススメです。
きっと主人公の成長がきっちり描かれているのが読者さんを満足させてくれるはず。
あ、好きな書き方だ。
読み始めて直感し、文を追いかけていくごとにその直感は、納得に変わり、スラスラとストレスなく、一気に話を読み上げてしまいました。
タイトルから、浜田省吾?と思いましたが、途中で、扱われてたので、自然と頭の中に曲が流れて来て、切なかった。今は亡き夫とよく聴いていたからです。うちはダンナが大ファンだった。
おりしも、今年は初盆。そして、迎える13日になぜ、この作品と出会ったのだろう。
作品の意図するテーマから私はズレた捉え方をしてしまってるだろう。
でも、この2人はこれから幸福になってほしい。それくらい感情移入してしまいました。
非常に単調でありながら、水のようにじわりと心に染みる成長の物語。
「はじめて」を常人より警戒してしまう語り手の、同じことを繰り返し、変化を嫌う生活は確かに安心で、そして寂しさを感じるものです。
「はじめて」はとても刺激的で、火傷することもあれば、気持ち良くしてくれることもあります。
ラストシーンではそれをひっくるめて裏切りがあって良く楽しめました。
最初に言った通り文章がいい意味で単調で、淡々と語られるのが特徴的。
浜省と囲碁の話は知らなくても大丈夫なのも好評価。
知っていれば語り手により共感する助けになるかどうか程度にまとまっていました。
惜しむらくは結末が少し駆け足気味だったこと。
竜頭蛇尾……は言い過ぎですが、冒頭の芸術的な情景の描写に比べて、終盤は些か物足りないと感じてしまいました。
しかし題材、緩急、表現が短編としてよく完成された作品です。
一読する価値は確実にあると言えるでしょう。
良い作品をありがとうございました。