「はじめて」は人生のスパイスである

非常に単調でありながら、水のようにじわりと心に染みる成長の物語。

「はじめて」を常人より警戒してしまう語り手の、同じことを繰り返し、変化を嫌う生活は確かに安心で、そして寂しさを感じるものです。
「はじめて」はとても刺激的で、火傷することもあれば、気持ち良くしてくれることもあります。
ラストシーンではそれをひっくるめて裏切りがあって良く楽しめました。

最初に言った通り文章がいい意味で単調で、淡々と語られるのが特徴的。
浜省と囲碁の話は知らなくても大丈夫なのも好評価。
知っていれば語り手により共感する助けになるかどうか程度にまとまっていました。

惜しむらくは結末が少し駆け足気味だったこと。
竜頭蛇尾……は言い過ぎですが、冒頭の芸術的な情景の描写に比べて、終盤は些か物足りないと感じてしまいました。


しかし題材、緩急、表現が短編としてよく完成された作品です。
一読する価値は確実にあると言えるでしょう。
良い作品をありがとうございました。

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