何度でも読み直すことができる、名作学園伝奇サスペンス

面白い! ……長々とレビューをするよりも、もういっそコレくらい一言で伝えた方が逆に良いんじゃないか。そう思える作品でした。
しかし本当に一言で終えるわけにもいかないので、ちゃんとした感想も書いていきます。ですが冗談抜きで面白さを言語化するのが難しく、それでいて間違いなく「面白かった!」と断言できる一作です。

クラスメイトの小さな『異様さ』を目撃した『木徳直人』は、彼女を尾行した結果縛られて監禁されてしまう。自らを『ミズチ』と名乗る彼女は、間違いなく『異質なナニカ』を孕んだ殺人鬼で――。
そんな冒頭から強烈なインパクトが発揮されていて、読者を物語の世界へと一気に惹き込んでくれます。「最序盤は読者の興味をそそるオープニングにした方が良いよ」とWeb小説界隈では頻繁にアドバイスされているものの、それが中々できない・できていない作品も多い中で、本作は1ページ目からアクセル全開といった感じで、本当に素晴らしいと思いました。
緊迫感や臨場感の溢れる序盤から始まり、奇妙な同盟関係を結んだ直人とミズチが学校を舞台に『敵』と戦っていく展開も、非常にシリアスかつスピーディーで楽しめました。『魔術』という要素が学園伝奇モノや異能バトルものの側面を強めつつ、『膜』などといったオリジナリティ溢れる設定も光っています。

そして個性的なのは設定だけでなく、特にメインヒロインのミズチが狂気的かつ魅力的な登場人物でした。読者人気が高いのも納得です。
襲撃者達もそれぞれの『悪』を内面に抱え、バックグラウンドがシッカリと練られているために、小説のキャラクターでありつつも『一人の人間』としての人生や感触というものが、強く伝わってきました。血肉の通った人間として表現できている技量もお見事です。

そんな彼らが人間臭く、血生臭く彩った後半からは、もう怒涛も怒涛の展開といった感じでした。総じて『単調さ』や『退屈さ』といったものが一切なく、飽きることなく最後まで、夢中になって読み進めることができました。
序盤に抱いた直人とミズチの印象やキャライメージが大きく変わっていく終盤に関しては、圧巻の一言です。大どんでん返しが待っており、痺れるタイトル回収で名作認定し、エモすぎるエピローグは読後の余韻や満足感を十二分に与えてくれます。未見の人は、とにかく最後まで読んでくれ。それしか言えません。

とにかく『無駄な要素・展開』や『捨てキャラ』が全く見当たらない構成で、そしてそれは文章においても同じことが言えます。多少好みの分かれる文体かとは思いますが、必要な情報を必要なだけ描写しているのは素晴らしいの一言でした。
非常に完成度が高く、それでいて読んだ後には再読したくなる伏線がてんこ盛りです。恐らく読むたびに発見があって、三度読み、四度読みに耐え得る稀有な名作だと思いました。星3じゃなく5とか10くらい付けたいです。それくらい本当の本当に面白かったです!

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