魔術師の永い午睡

 ちからは、美しい。
 この物語は、ちからに魅入られた魔術師の物語……そのように読める。

 ちからは、生命力そのものであり、エントロピーの増大にともなって拡散してゆくものであり、暴力であり……すなわち、破滅である。


 なかば自覚のないまま、ちからに魅入られ、新宿へやってきた魔術師と、ちからを矯めて『使おう』としてきた者たち、そして、在り方に規定された『意思』を持つちからそのもの、三者の思惑が絡んで、そしてほどけていく。

 午睡のなかにあって終焉を夢見ていた魔術師はうつつに呼び戻され、ちからは矯められた……かのように見える結末。
 しかし、きっとことはそう簡単には終わらない。そうも予感させる。

 ちからは、いのちは、いずれ広がってゆく。
 そのさきにあるのは……
 不穏な予感を孕みつつも、いまはまだ『ちから』はひとの意思に絡め取られて『在る』。
 2020年、ここではない、どこかの新宿の物語。