どこにでもある平凡な家庭。でも温もりと安らぎに溢れる唯一の場所。

今はもう懐かしい感じさえするカクヨム三周年記念選手権。
数日おきに十ものお題が出され、テーマに沿った短編を発表するというお祭り企画は、書く人も読む人もかなりハードだったかと思います(笑)

人気と実力を兼ね揃えた作者様が、そんなフクロウコン(当時の通称)を振り返りながら、カクヨムの公式キャラクターであるバーグさんとの交流を幕間にはさんで全十作をまとめたのが本作となります。

連作短編のような形式で、北乃君というどこにでもいそうな少し気弱な青年の半生を辿った本作。
ある日出会った一羽のフクロウとの会話が、主人公に小さな一歩を踏み出させるきっかけとなります。
その小さな一歩から劇的に人生が……変わるわけではありません(笑)
ただ、その一歩が「温かな家庭」という、ささやかながら何ものにも変え難い宝物を築いていくスタートになっています。

約三十年に渡る北乃君と家族の物語は、平々凡々として、それでいてこれ以上にないくらいほっこりとした温かさに溢れています。
最終話では、また一人新しい家族を迎えた北乃君が、自分が踏み出した初めの一歩を振り返り、新しい家族に伝えることで、家族の絆や温もりが連綿と続いていくものであると感じさせてくれました。

幕間に描かれるバーグさんが登場する度に変化していくのも、人の温もりを読み手に伝える演出の一つなのだと思いました。

少し疲れた時にも気軽に読めて、心が温まって元気になれる、一家にひとつ常備しておきたい物語です。

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