北乃家サーガ~北乃家をめぐる些細な物語と意外と長い歴史の短編集~

関川 二尋

第一幕

序章 ~バーグさんとの出会い~

「執筆にお悩みではありませんか?」


 画面の右隅にイルカが現れ、突然そんなことを言いだした。


「しまった……また復活してるな」


 もちろん問答無用でバッテンマークをクリックしてご退場いただく。

 イルカは何だか名残惜しそうに、というか未練がましくジャンプを決めて電子の海へと帰ってゆく。


 と思ったら、今度は女の子のイラストが現れた。

 緑の帽子をかぶって、ピョンと片足を上げている可愛い女の子。

 

 うん。これはカクヨムのキャラクターのバーグさんだ。

 たしか執筆支援のAIみたいな設定だったはず。


「というかウィルスみたいなもんだな……」


 もちろん問答無用でバッテンマークを……


「ちょっと、ちょっと! ちょっと待ってくださいな」


 なんと音声が流れてきた。

 かなりかわいい声だ。思わずためらうほど。

 しかもちょっと古風な言い方が引っかかる。


「いや、待てないね、眠いんだよ」


 寝ぼけているせいもあって、つい声に出してしまう。

 だって今は日曜の10時。

 まだもう一眠りしてもバチは当たらないだろう。


「寝てる場合じゃありませんよ。締め切りは二時間後なんですよ」


 バーグさんのイラストが揃えた両手をブンブンふりまわしてアピールしている。

 まぁ可愛いんだけど、ちょっとあざとい感じもする。

 でも微笑ましかったりもする。

 というか締め切りって何の話だ?

 素人の良さは締め切りに縛られない自由さにあるのではなかろうか?


「コンテストが始まってます。ずっと見てなかったでしょう?」

「見てないよ、興味ないもん」


 バーグさんはショックを受けた表情。

 しかも吹き出しで『ガーン』と書いてある。

 思わず笑ってしまう。

 そして自分が普通に会話していることに改めて気付いてしまう。

 

(いかん、これは相当疲れている……)


「とにかくお題は決まってます。第一回目は【切り札がフクロウになってること】です!」

「なんかすごく『あからさま』だねぇ、それにフクロウなんて興味ないよ」


「そんなこと言わないでくださいな。きっといいコトありますからっ」

「たぶんないと思うよ。でも……」


「でも、なんです?」

「キミが、俺の書いた話を読みたいっていうなら書いてもいいかな」


 うん。動機なんてのはそれだけで充分なのだ。

 誰かが読んでくれて、面白かったと思ってくれればいいな、と。

 ちょっと恥ずかしいけど……


 するとバーグさんはなんとも嬉しそうにウンウンとうなずいてくれた。


「よし、じゃあ始めてみようか」


 締め切りまではあと二時間!

 とにかく書いてみないとことにはどこにもたどり着けない。


「完成したらちゃんと投稿してくださいね。ちゃんと読みに来ますから!」


 バーグさんはそう言い残して電子の海に消えて行った。





 という成り行きで書き上げたのが、これから続くエピソード1『コンビニで会ったフクロウの話』。


 この時の私は知る由もなかったが、ここからバーグさんとの壮絶な執筆生活が幕を開けるのである……

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