①【コンビニで会ったフクロウの話】
「ごめんなさい」
「すみません」
○
それがずっと僕の口癖だ。
○
考えてみれば物心ついてからその言葉ばっかり口にしている。
学校でも会社でも、なにか文句を言われればソレを口にしてきた。
それからペコリと頭をさげる。
○
時々うんざりするけれど、そうすることで僕の周りは少し油をさしたみたいに正常に回りだす。
だからいつもそうしてきた。
そして今日、僕は仕事が忙しくてすっかり彼女の誕生日のことを忘れていた。
○
「ごめんね、気付かなかったんだ」
「北乃君、いつも謝ってばかりだよね? ほんとに悪いと思ってるの?」
僕は彼女の言葉と表情にいたたまれなくなって、ついアパートを飛び出した。
○
安くてもいい、とにかくなにかプレゼントを買おう。
それを渡して、もう一度ちゃんと謝ろう。
○
五分も歩くとコンビニが見えてきた。
夜中でも開いている店なんてコンビニ以外にはない。
車はほとんど走っていないのだけれど、それでも田舎道は危ないからちょっと右左を確認して急いで横断歩道を渡る。
ここまでくればもう安心。
コンビニは何かの宝石か、基地みたいにキラキラと輝いていた。
○
その時だった……
○
「よう、こんな時間にどうした?」
急に声が聞こえてきて僕はビクリとする。
周りを見回したけれど、誰もいない。
いないはずだ。うん、やっぱりいない。
○
「上だよ、上」
また声がして、僕は声のした方、教えられた上を向く。
LEDの照明がまぶしい街灯、そこに一羽のフクロウがいた。
いたけど……
○
「なんだよ、ハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔して?」
「わっ、ホントにしゃべってる!」
「そりゃフクロウだもん、しゃべるさ」
○
フクロウって喋るんだっけ?
一瞬そう思ったけど、僕は頭をふってそんな考えを振り払った。
いや、鳥はしゃべらない。
○
「オウムだって喋るだろ? アレと同じさ」
なるほど……と思いかけて僕はまた頭をブンブンと振る。
オウムのアレは鳴き声みたいなもので、しゃべるってのとは違う。
○
喋るってのはもっとこう、自分の意志で、自分で言葉を選んで、相手に何かを伝えるためにするものだ。
だから僕はフクロウにそう言った。
○
「あのさ、フクロウさん、喋るってのはもっとこう、自分の意志で、自分で言葉を選んで、相手に何かを伝えるためにするものだよ。オウムは喋ってないんだ」
「だったらアンタもちゃんと喋ってないんだな」
○
僕はフクロウの言葉にハッと胸を突かれた。
なにか暗くよどんだ心に光が差したみたいだった。
○
「分かったろ? お前が何をしなきゃいけないか」
僕はうなずき、それからスマホを取り出して彼女に電話をかけた。
○
「これがプレゼントになるか分からないけどさ、キミの大事な誕生プレゼントには足りないかもしれないけどさ」
「あたしコンビニで買うようなプレゼントならいらないから」
「うん。コンビニには売ってないよ。ねぇ、僕と結婚しよう!」
「な、なによ? 急に嬉しそうな声出して」
「返事を聞かせてくれる?」
「もちろんよ」
「それはその、どっちの意味?」
「ちょっと意外だったけどサ……ステキな誕生プレゼントありがと!」
彼女の声は本当に嬉しそうだった。
○
「すぐに帰るよ! あ、でもついでにコンビニでワインでも買ってく」
「うん。待ってる」
僕はスマホの通話を切り、あのフクロウを見上げる。
「ありがとう、君のおかげだね」
○
フクロウは不思議そうにクルリと首を
今度は何も言わずに……
○
そういえばフクロウは『森の賢者』と呼ばれているんだったな。
僕はそんなことを楽しく思い出した。
終わり
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