7時間目 修学旅行 3

「おはようございます⋯⋯」

「うわ、沙羅!? 大丈夫!?」

 南沢が目を見開いている。

「おはよう、花ノ宮。大丈夫だったか?」

 昨日あんな事があったから、心配だ。

「えぇ⋯⋯大丈夫ですわ、新垣先生」

「⋯⋯先生、多分大丈夫じゃないです」

「どういう事だ、七草?」

「理事長先生って誰かを叱る時、なんていうか、じわじわ痛めつけるみたいに叱るんです」

 それは娘に対しても例外ではないという事か。

「⋯⋯花ノ宮。今日の放課後、この教室に来てくれるか?」

「⋯⋯⋯⋯はい」

 花ノ宮は生気のない目をしていた。


 放課後になってすぐに、花ノ宮は現れた。

「先生、お待たせしました」

「とりあえず、適当に座ってくれ」

「はい」

 俺に促され、花ノ宮は椅子に座った。

「話したくなければ話さなくていい。昨日⋯⋯何があったんだ」

「⋯⋯⋯⋯お父様に、叱られました。『沙羅は花ノ宮の家を継ぐのだよね?』『だったら娯楽はいらないよね?』『だいたい、修学旅行そんなものに行って何になる?』と言われましたわ」

 なんて父親だ。娘に思い出を作らせてあげよとは思わないのか。

「⋯⋯先生。私、家出します。学校はおじいさまの家から通いますわ」

「大丈夫か?」

 おじいさまとやらも同類ではないのか?

「えぇ、おじいさまは私に無償の愛を注いでくださる方ですから大丈夫です」

「そうか、分かった。頑張れよ」

「はい」

 花ノ宮の目には、揺るがない決意が宿っていた。


 それは、教室に突如として現れた。

「おはようございます、新垣先生」

 理事長はにこやかに挨拶をした。

「おはようございます、理事長」

 俺も挨拶を返す。

「沙羅が昨日から家に帰っていないのですが、何か知りませんか?」

「すみません、分かりません」

 とっさにそう答えた。

「そうですか」

 理事長はきびすを返して去って行った。

「沙羅、もう出て来ていいよ」

 南沢が掃除用具箱に向かって声をかけると、

「全く、ほこりっぽかったですわ!」

 花ノ宮がき込みながら出て来た。

「ごめんね、沙羅ちゃん。教室の隠れ場所っていったらそのくらいしかなくて⋯⋯」

「いえ、お父様から守ってくださってありがとうございました」

 花ノ宮は服についた埃を払いながら言った。

 事件は一旦解決した。

 なぜかは分からないが、また胸騒ぎがする。

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