俺、JKのオモチャです。

卯月みお

出会い編

1時間目 初出勤

 期待と不安が入り交じる中、俺は都内某線の駅を後にした。

 今日は初出勤で、これから勤務先の学校へ向かう。ここから歩いて15分ほどだ。

 勤務先が学校という時点でもうお分かりだと思うが、俺こと新垣あらがききょう一郎いちろうは教師だ。

 初めての職場は、はなみや女子大学附属高校――いわゆる「女子高」だ。

 略して花女はなじょと呼ばれている。

 花女は幼稚園から大学までエスカレーターのお嬢様学校であり、偏差値も67と高い学校だ。

(女子高なんていうくらいだから、優雅でおしとやかなお嬢様がいっぱいいるんだろうな。

 俺の母校の男子校とは違って、ふわふわした、いい匂いがするんだろうな。)

 半ば変態のような事を考えながら、俺は学校への道を急いだ。


 すー、はー、すー、はー。

 俺は担当の教室、2年A組の前で深呼吸をする。

 教室に入るのにこんなに緊張するとは思わなかった。

 しばらく深呼吸をしていると、

「あの⋯⋯」

 いきなり後ろから声をかけられ、飛び上がりそうになる。振り返ると、1人の女子がいた。

「な、何!?」

「すみません、どいていただけますか⋯⋯?」

 小さく、申し訳なさそうな声でその女子は言った。

「あ、あぁ、ごめん⋯⋯」

 俺が横にどくと、その女子は教室へ入っていった。

 気弱そうなあの子だって勇気を出したんだ。男の俺が勇気を出さないでどうする!

 俺はドアに手をかけると、一気に開け放った。

 生徒が一斉にこちらを向く。

 まずい、やってしまった――

 気がついた時には、もう遅かった。


「え? 何?」

 そんな声が聞こえる。

 穴があったら入って地球の裏側まで行ってしまいたい。

 そんな気持ちに駆られながらも、つかつかと歩き、教壇に立つ。

「おはよう!今日から担任になる、新垣教一郎です!よろしく!」

 俺はできるだけ笑顔を作り、そう言った。

「あ、さっきの⋯⋯」

 一人の女子が呟いた。

「え、すず知り合い?」

 派手な女子が問いかけると、

「うん、さっき教室の前で会ったの」

 鈴菜と呼ばれた女子が答えた。

「あ、先生か! 不審者だったらどうしようかと思ったー!」

 逆にどうするつもりだったんだ。少し背筋が寒くなった。

「教ちゃんさ、何で花女うちに来たの?」

「教ちゃん?」

 俺は思わず聞き返した。

「名前、新垣教一郎って言ったっしょ? だから教ちゃん」

 なるほど。

「俺は今年から教師になって、新規採用でこの学校に来たから、このクラスが初めての担任になるんだ」

「へー、そーなんだ! あ、自己紹介しとくね。あたし、みなみさわあいら! 見た目はギャルだけど、不良じゃないよ。よろしく、教ちゃん!」

「よろしく、南沢!」

「あ、あの⋯⋯。私も自己紹介、いいですか?」

 先ほど鈴菜と呼ばれた女子がおずおずと言った。

「いいよいいよー! あ、もう皆で自己紹介しちゃわない?」

「そうだな、南沢!」

「えっと⋯⋯七草ななくさ鈴菜です。よろしくお願いします」

「ありがとう、七草。他にやりたい人は?」

「わたくしが自己紹介しますわ」

 また1人の女子が手を上げた。

「じゃあ、やってくれ」

「はい。花ノ宮沙羅さらと申します。以後お見知りおきを」

 花ノ宮ははぺこりとお辞儀じぎをし、席に座った。

「あれ、花ノ宮って名字⋯⋯」

「あ、花ノ宮さんはお父様がうちの学校の理事長先生なんです」

「ご説明ありがとう、七草さん。よろしくお願いしますね、新垣先生」

 花ノ宮はニコっと微笑んだ。

 それからしばらく皆で自己紹介をしていると、講堂に移動する時間になった。

 いよいよ始業式の始まりだ。

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