第14話 ひょっとして風俗に行った?
(11月第1月曜日)
同居生活を始めてからもう2週間ほどになっている。ようやく生活にリズムができてきた。私も家事に慣れてきてゆとりが出てきた。ただ、相変わらず夜は別々に休ませてもらっている。
お風呂はどちらが先に入るかは決まっていない。でも、どちらもソファーで上がって来るのを待っている。最初の晩に私がお風呂で寝込みそうになったことがあったから、意識してそうしている。
亮さんは私が寝込んだら、これ幸いと鍵を開けて助けに行くと言っている。だからお風呂では絶対に眠らないように気を付けている。
二人の入浴が終わると、おやすみのハグをするようになっている。今はこれが私の受容限度だと亮さんも思っている。
亮さんは今のところこれ以上のことは期待していないみたい。少し申し訳ないような気がしているが、ここまでが精一杯だ。おやすみなさい。
◆ ◆ ◆
(11月第1木曜日)
週の半ばの今日は朝から亮さんがそわそわしている。何となくだけどそう思う。朝食を食べながら、亮さんが今日の予定を話してくれた。
「今日は同期との懇親会があるので、夕食はパスします。2次会まで行くかもしれないので、帰りは11時過ぎになるかもしれません。先に休んでいてください」
「分かりました。飲み過ぎに気を付けて無事に帰って下さい」
飲み会は同居を始めてから今回が初めてだ。久しぶりの同期会で亮さんも気持ちが弾んでいるみたい。いつものように亮さんは軽くハグして先に出かけた。
今日の帰りは久しぶりに品川の駅ビルの中をウインドウショッピングして回った。ここのところ毎日夕食の用意をしなければならなかったので、必要なもの買うとすぐに帰宅していた。久しぶりにのんびりした気分になれた。
結婚すると生活が安定するけど、引き換えに自由な時間も少なくなる。分かっていることだったがすこし窮屈だ。それに何となく心が晴れない。
きっと亮さんとまだ十分に気心を通じ合えていないからだと思う。でも精一杯やっているけど、今一歩がやはり踏み出せていない。
今日は一人だけの夕食だから気に入ったお弁当を買って帰ることにした。やはり一人分を作る気にはなれない。
マンションに着くとまだ7時前だった。お湯を沸かしてお茶を入れてお弁当を食べる。なかなかおいしい味付けだ。遅くなったら二人分買ってきて食べても良いと思えるほどおいしいお弁当だった。
9時になったので、お風呂に入った。独身時代に戻ったような気分だ。ゆっくりお湯につかる。眠っても亮さんが入って来る心配もない。ゆっくり入る。でも眠ったらだめだ。
上がってから飲む冷たい牛乳がおいしい。まだ、10時前だ。やっぱり亮さんの帰りは11時ごろになるのだろう。無事に帰ってほしい。テレビを見ていたら、うとうとしてしまった。
ドアの鍵を開ける音で目が覚めた。亮さんが帰ってきた。すぐに玄関まで迎えに行く。
「ただいま」
「おかえりなさい。遅かったので無事か心配していました」
亮さんはいつもならするハグを今日はしなかった。
「ありがとう、大丈夫だ、そんなに飲んでいないし、すぐにお風呂に入るから」
「上がるまで起きています。その間に着ていたものを洗濯機にかけておきます」
そういうと亮さんがワイシャツの匂いを嗅いだ。なぜ? いままでそんな素振りはしたことがなかったので気になった。
私がそれを見ていたのに気がついたようで、目が合ったら亮さんは目線をはずした。何か後ろめたいことでもあるのかな?
亮さんが匂いを嗅いでいたので私も洗濯を始める前に匂いを嗅いでみた。居酒屋のような匂いがする。でもそんなに気にすることはないのに、なぜ?
もう一度匂いを嗅いでみる。居酒屋の匂いとは違ったかすかな香水のような甘い匂いがする。これだ!
亮さんとの約束を思い出した。でもまさか? 言っているだけでそれを実際にするような人ではないと思っていた。
それもまだ同居を始めてから2週間しか経っていないのに、本当ならショックだ。明日、それとなく聞いてみよう。
亮さんがお風呂から上がってきた。「お洗濯をしておきました。おやすみなさい」とだけ言って自分の部屋にすぐに入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます