第2話 お見合いしたけどいい人かもしれない。もう一度会ってもっと話をしてみたい!

今日は父がお見合いに同席すると言う。母が風邪を引いて体調が悪いこともあるが、気になって自分の目で相手を見たいようだ。私は母よりも父に見てもらった方が良いと思っているので好都合だ。


2時5分前に会場になっているホテルのラウンジに到着した。あいだに入ってくれた山村さんがラウンジの奥のテーブルで手を振って合図している。山村さんは母の高校の同級生と聞いている。


相手の方は母親とすでに席についていて立ってこちらに挨拶している。相手の男性はどこかで見たような気がした。近づくと山村さんが紹介してくれた。


「こちらが山野やまの理奈りなさんです」


「はじめまして、山野理奈です」


吉川よしかわりょうです。新幹線でご一緒でしたね」


「そういえば、窓際の席におられましたか? どこかでお会いしたような気がしました」


「ええ……、そうでしたか、ご縁があるかもしれませんね」


山村さんが驚いた様子で言った。


「父親の山野信男です。母親の体調が悪いので私が付いてきました」


「亮の母親の吉川静江です。よろしくお願いします」


ひととおり自己紹介が終わって着席すると、ウエイトレスが注文を取りに来る。山村さんは紅茶、ほか全員はコーヒーを注文した。


父は吉川さんの勤務先について聞いていた。彼は名刺を父と私に渡して、会社の事業内容や自分の業務内容を説明してくれた。父は勤務時間や休日などについても詳しく聞いていた。結婚したら私の生活に直接係わることだから聞いてくれたのだと思う。


吉川さんは私に大学の学部と専門について聞いた。また今の勤務先と仕事の内容について聞いた。私は商社に派遣社員として勤めていることを話した。吉川さんは私が有名私立大学を卒業しているから不審に思ってその理由を聞いて来た。


私は今の段階ではあまり詳細に話したくなかったので、事情があって2年前に前の会社を辞めたとだけ答えた。吉川さんはそれ以上聞いては来なかった。もっと聞かれていれば話すつもりだったが、吉川さんの心遣いを感じた。いい人かもしれない。


吉川さんの母親の静江さんは私に料理が好きかと聞いた。私は自炊していて好きだと答えた。母親は息子の食事のことが気になるみたいだ。母親は優しそうな控えめな人だった。きついタイプではないみたい。私の母親に感じが似ている。


ひととおり話をして、話題が途切れたところで二人は席を変えることになった。吉川さんは私をここからすこし離れたホテルのラウンジへ連れて行ってくれた。ここは前回のお見合いの会場だったので、中はよく分かっている。


奥の方の隅に吉川さんは席をとった。今度は紅茶でいいかと聞かれたので、それでお願いしますと答えた。


「新幹線で席が近くだったなんて、本当にご縁があるのかもしれませんね」


「そうかもしれませんね、驚きました」


「隣にすごい美人が座っていると思っていました」


「私はときどき見られていたような気がしていました」


「こんな風に再会できるとは思いませんでした。僕はラッキーかもしれません」


「そういっていただけると嬉しいです」


「ちょっと聞いてもいいですか?」


「どうぞ、なんでも聞いて下さい」


「ご兄弟または姉妹はおられるんですか?」


「弟が一人います。3歳年下ですが、いま大阪に就職しています。あなたは?」


「同じく、2歳年下の弟がいます。東京に就職していて千葉に住んでいます」


「お互いに、長男長女ですね」


吉川さんは両親の老後をどう考えているか、私に聞かなかった。それを聞かれても今は答えがない。吉川さんも同じだろう。だからあえて聞かなかったのだと思う。


「どうして結婚する気になったのですか?」


吉川さんは率直に聞いてきた。


「この先の生活が不安です。ひとりで生きていくのが」


「それは収入の面ですか?」


「それもあります。お給料が多くないのでゆとりがありません。ひとり暮らしの漠然とした不安もあります」


「それは僕も同じです。これからもずっと一人と考えると心配になります。漠然とした老後の不安かもしれません。歳も歳ですから、親も勧めるのでそろそろ身を固めた方がよいかと思っています」


「私も同じです」


それから、吉川さんは話題を変えて、同期の親しい友人から聞いたという経済学の分野で「秘書問題」や「裁量選択問題」と呼ばれる理論分析が、お見合いにも応用できると言う話をしてくれた。


要するに「全体の約37%を見送り、それ以降に今まででベストの相手が現れたらその人を選ぶ」というのが最適なお見合いの方法らしい。


要するに10人見合いをするとして、3人目までは見送って4人目以降、それまで出会った人の中でベストな人が現れたら結婚するということのようだ。


その理論でいくと、まあ10回位はできるとして、私はもう3回しているので、今度それまでにない人が現れたら決めるのがベストということになるみたい。


これは統計学を応用した考え方のようなので納得できる部分がある。面白い話をする人だ。思わず笑ってしまった。


「もう何回か、お見合いをなさっているんですか?」


率直に聞いてみた。


「想像に任せますが、これまでにない良い人と巡り会ったら決める時期と思っています。もちろん相手の気持ち次第ですが」


「良いお話を聞かせていただきました。参考になります」


それから取り止めのない話をした。まあ、本当に雑談と言うような内容だ。雑談した方が人となりが分かる気がしている。


ただ、話をしていて分かることもあるが、分からないことの方が多い。会った時、話した時の印象で決めるしかないと思っている。あとはお付き合いするかをきめて今日中に山村さんに連絡すればいいことになっている。


「それじゃあ、これで」


「ありがとうございました」


挨拶をしてラウンジを出ると私はホテルの入口でタクシーに乗って帰った。


家では父と母が待っていた。


「どうだった?」


「お父さんの印象はどうだった?」


「誠実で人柄も良いと思った。これはいままでの経験からだ」


父は地元企業の部長をしていて、部下もそれなりにいるから意見は参考になる。


「それから、自分と同じような匂いがすると言うか性格が似ていると思った。だから、理奈をまかせて安心という気がする」


「理奈はどうなの?」


「誠実な飾らない人で好感がもてました。おつきあいしても安心と言うか」


「それなら、私も会って見たかったわ。それでどうするの?」


「もう一度、会ってもっとお話をしてみたいと思います。もう一度会って良い人だと思えば決めます。だから、山村さんにはもう一度お会いしたいと伝えてもらえますか?」


山村さんから吉川さんの返事が伝えられた。吉川さんは交際したいとのことだった。それで、もう一度会うことになった。


私は東京ではなく金沢で会いたいと伝えてもらった。吉川さんは受け入れてくれた。

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