お見合い結婚します―でもしばらくはセックスレスでお願いします!
登夢
第1話 お見合い結婚したい訳!
(9月第2土曜日)
9月9日土曜日の朝、私は新幹線に乗って帰省する。この時間、東京駅はまだそれほど混んでいない。
いつも発車の30分前には到着することにしているけど、随分早く着いた。発車時間の40分も前だった。
東京のお菓子を両親は喜ばないから、お土産は買わないことにしている。時間があるから待合室へ向かう。待合室はそんなに混んでいないみたい。入る人も多いけど出て行く人も多い。
席も空いているので一休みする。15分ほど前になったらゆっくりとホームに向かうことにしよう。9月になったとはいえ、まだまだ外は朝から暑い。
全車指定席だから並ぶ必要もないけど、すでに何人もの人が並んで待っている。清掃作業が進んでいる。もう少し待合室でゆっくりしていても良かった。暑い!
座席は8号車12Cだ。新幹線はいつもC席にする。よっぽど混まない限りB席は空席になるからうっとうしさがない。D席かE席では少し混んでいると隣に誰か座る。
いつだったか中年のおじさんが隣に座ったけど体臭が酷くていたたまれなかった。あんな匂いをさせている人の奥さんの気が知れない。かまってもらえないのか、無視されているのか分からないけど、迷惑極まりない。
私の父もあれくらいの年齢だけどあんな匂いはしない。母が気を使っているからかもしれない。でも最近父も少し老人臭がするようになった。父も歳をとったのだと思う。
ドアが開いて乗り込み始める。席に着くともうA席には人が座っていた。だから棚に荷物を載せるのをやめておいた。
座るとすぐにスマホをチェックする。スマホ依存症ではないと思っているけど、いつも見ていないと不安になる。ひょっとするとこういうのを依存症というのかも知れない。でもスマホは手放せない。
新幹線が動きだした。金沢まで2時間半かかる。今日は午後からお見合いの予定だ。去年から始めたけど、これで4回目になるかな。
最初に入った会社を2年前に辞めて、今は派遣社員として商社に勤めている。以前と比べて収入が3割ほど減ったので、生活にゆとりがない。
それもあって結婚を考えるようになった。このままずっと一人でいることを考えると後々の生活が不安だ。
両親は地元へ帰って就職したらと勧める。確かに住居費がかからないし、生活は楽になるに違いないことは分かっている。
でも生活は苦しいけど今の東京の暮らしには満足している。何でもあるし、地元にない活気がある。若い人も多い。
それに比べて、実家の周りは高齢者ばかりになっている。父はそろそろ定年になる。それまでに結婚して安心させて上げたいと思うようになった。
今日のお見合いの相手は35歳と聞いている。私が今28歳だから7歳差だ。写真も見ていない。私は顔には特にこだわらないが好みはある。まあ、良いに越したことはないが、どちらかというとイケメンでない方が浮気の心配もなく安心だと思っている。
父と母は見合い結婚で丁度7歳離れている。それをそばで見ていたから年の差もそんなに気にならない。父と母は仲が良く、母はすっかり父に頼っている。確かに父は頼りがいがあるし、私も父が好きだ。だからお見合いをする気になった。
高校の同級生では結婚した人がもう半数以上になっている。夫と一緒に赤ちゃんを抱いている写真を見せられると結婚はすべきだと思ってしまう。30歳までには結婚したいと思うようになった。30歳を過ぎると相手を選べなくなるとはよく聞く話だ。
恋愛もしてみたいけど、いままでいろいろなことがあって、恋愛が怖くなっている。大体私に声をかけてくる人は、イケメンで自分に自信のある人か、ちゃらちゃらした遊び人風な人が多かった。
どうもそんな人とは付き合う気になれなかった。普通の真面目な人はきっかけでもないとなかなか声をかけてきたりしないものだ。職場でもそうだ。
私のこだわりもあって、たまたまお付き合いをすることになった人にもつきあう一歩か二歩手前を保って、付かず離れずにしてきた。それで、私には気がないのか、他に誰かいるのかと思って、自然と離れていく人がほとんどだった。
私もどうしてもあと一歩が踏み出せなかったのでここまできたと言える。ただ、真剣に付き合ってみたいと思える人と巡り会えなかったのかもしれない。
お見合いの方が手取り早いと思っている。いつもはきっかけがなくて話ができない人とも話ができるし、付き合うきっかけを作ってくれる。
お見合いとはいかないまでも、誰かの紹介があるときっかけができるのだけど、最近そういうおせっかいをする人がいなくなっている。
お見合いではいろいろな条件が分かるので確実に良い相手が選べるとも思っている。そして条件に合った相手が見つかれば、それから好きになればいいと思っている。
私の条件は、安定した職業、会社に勤めていること。経済力が保証されているから、安心して暮らせる。次に有名大学を卒業していること。友人への見栄もあるけど、私のプライドもある。私は東京の有名私立大学を卒業した。これら2点は事前に分かる。
次に性格が合うこと、それから誠実で、父のように頼よりがいがあって、優しい人が良いと思っている。ただ、こればかりは付き合ってみなければ分からない。これがかなり難しいことは分かっている。
これまで3回しているけど、学歴と勤務先は条件に適っても、あとの条件にかなった相手はいなかった。お見合いは毎回独立したイベントだ。会う相手が段々と良くなっていくということがない。また、すべてがそろっている人はなかなかいない。
でも、少しずつ慣れてきて要領が分かってきている。いまだに納得した相手に巡り会っていないが、何人とお見合いすればいいんだろう。最近少し不安になっている。
派遣される会社を替わるたびに思うことだが、会社には良いところも悪いところもある。ある会社は概ね良いがどうしても気になるところがあったりする。別の会社では前の会社では当り前のことだったことが当たり前でなかったりする。すべて満足できる会社はなかなかない。
お見合の相手も同じだ。一長一短だ。どこか我慢していい加減に決めないと、婚期を逸してしまうと思うようになっている。
今日のお相手は地元の大学を卒業して東京の大手食品会社に勤務している。学歴と勤務先はクリヤーしている。あとは人柄だ。
こればかりは会って話してみないと分からないが、大体第一印象で分かる。私も30歳手前だ。1,2回話しただけで性格などは分かるようになっている。
A席に男の人が座っている。ときどき私をチラ見する。私はチラ見されるのには慣れている。街を歩いていても男の人の目線を感じることが少なくない。
とりわけ美人ではないと思っているけど、同級生からあなたはすごく美人で羨ましいと言われたことがある。まあ、普通よりも良い方だとは自負はしている。
A席の人は丁度30歳半ばくらいか、今日の見合い相手と同じような年齢のようだ。出入りの難しいA席には座りたがらないものだが、旅慣れているのかもしれない。
パソコンの雑誌を読んでいるが、ときどき読み疲れると外を見ている。確かに新幹線になってから、景色は良くない。私も景色よりもスマホを見ている。
スマホに疲れてうとうとしていると、あっという間に金沢に到着した。便利になったものだ。
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