第16話 布団に入れてほしいと言ってみた!

意外と早く、6時前にはマンションに帰ってこられて良かった。金沢で買ってきたお弁当を二人で夕食に食べた。


いつものように食事を終えてから、亮さんがコーヒーを入れてくれた。私はずっと考え事をしていた。どうしたら亮さんが喜んでくれるだろうかと。結論は分かっているが、まだ前に進めない。その勇気がない。


亮さんは私が考え事をしているのに気が付いたみたいだったけど何も言わなかった。でも不安な様子が見て取れる。


今日は新幹線に揺られて疲れたから、早めに休むことにした。亮さんに先にお風呂に入ってくれるように頼んだ。


その後に私が入った。私がお風呂から上がったら、亮さんが冷たいお茶の入ったコップを渡してくれた。気を遣ってくれている。


私が飲み終えるのを待って、亮さんがハグしようとする。とっさに私から亮さんに抱きついていつもよりしっかりハグして「おやすみ」と言った。思いがけないことだったのか、亮さんは嬉しそうに部屋に入っていった。


そのあと、どうしようかしばらく迷ったが、私は亮さんの部屋のドアをノックした。


「入ってもいいですか?」


「いいけど、どうかした?」


私はドアを開けて中に入った。亮さんの匂いが部屋いっぱいに満ちている。以前だったら不快に思えたかもしれないけど、今日は何とも思わなかった。どちらかというと懐かしい匂いだ。


「布団に入りますから、抱いて寝てください。ただ、軽く抱くだけでお願いします」


「言うとおりにする。喜んで」


私は恐る恐る亮さんの布団に入った。まともに亮さんの顔を見られないので、自然と目を閉じている。亮さんの手が伸びてきて私を抱き締めようとする。緊張してドキドキする。


「理奈さん、身体がガチガチだ。無理することはありません。部屋に戻ったらどうですか」


「すみません。緊張してしまって、これじゃあ、亮さんに悪いですね」


「その気持ちだけで十分嬉しい。どうするこのままここにいる?」


「はい、迷惑でなければ居させてください」


「迷惑なはずがない。それじゃ、向きを変えて後ろを向いてくれる」


私は素直に向きを変えた。


「後ろから軽く抱いてあげる。それなら緊張しないと思う」


「それでよければそうして下さい」


亮さんの右手と左手が私をそっと包み込んだ。私はとっさに亮さんの両手を掴んでいた。私がそうしたことで亮さんは動きが取れなくなった。我ながら良い判断だと思った。


でも、手を握っているので亮さんはまんざらでもなさそうで、動こうとはしなかった。私はこれで安心だ。後ろの亮さんは落ち着いていて、黙ってそのままにしていてくれる。良い感じだ。


亮さんは何を考えているんだろう。このまま無理やりにということも考えているかもしれない。でもきっと亮さんは何もしてこない。そう信じることができた。


確かに亮さんは何もしてこなかった。手を握ったことでそれが抑えられたのかもしれない。背中が温かい。いつの間にか眠ってしまった。


朝、目が覚めたら、まだ暗かった。5時を少し過ぎたところだった。握っていたはずの手は離れて私の背中にあった。


亮さんが起きないようにそっと部屋を離れた。幸せな気持ちでいっぱいだった。抱いて寝てもらってよかった。

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