第17話 風邪で寒気がしたら一緒に寝て温めてくれた!

(11月第2金曜日)

亮さんの布団に入った日から4日ほどたった。それからはあえて行かなかった。私としてはちょっと冒険だった。もう少し冷静になった方が良いと思ったからだ。


金曜日、食事の後片付けが辛かった。身体がだるくて熱っぽい。週の後半は仕事が忙しかったので疲れが出たと思った。それを亮さんに話して、お風呂に入ってからすぐに部屋で横になった。


亮さんが私の体調を気にしてドアをノックした。


「大丈夫? 熱は出ていないの?」


「悪寒がして、身体が震えるんです」


身体がだるい。亮さんが「入るよ」といって部屋に入ってきた。額に手を当てて熱があるかをみていた。熱いと思ったのか、体温計を持って来て計ってくれた。38℃あった。


亮さんは部屋を出て行って、解熱鎮痛薬とお湯の入ったカップを持って来てくれた。それを飲み終えると、今度はタオルでくるんだアイスノンを持って来て、首の下あたりに入れてくれた。冷たくて気持ちいいけど、相変わらず寒気がする。


「毛布を出して使っているのにとっても寒いんです」


「身体は熱があって熱いのにね?」


「分かりません」


「布団に入るよ。誓って何もしない。温めてあげるだけだから」


亮さんはあっという間に私の後ろに入ってきた。そして、この前のように私を後ろから包むようにそっと抱いてくれた。突然そうしたので、何も言えなくて黙ってじっとしている。


「足を僕の足の間に入れたらいい、温まるから」


私は黙ってそのとおりにした。足を亮さんの足の間に入れる。


「心配しなくていいから、おやすみ」


亮さんの足は毛むくじゃらだった。父の足に感じがそっくりだ。なつかしい感触。しばらく足を動かしてその感触を確かめていた。そのうちに背中が温かくなって眠ってしまった。


夜中に亮さんが私を揺り起こした。


「理奈さん、身体が汗でびっしょりだ。着替えをした方がいい。今タオルを持って来てあげるから、待っていて」


「はい」


私が着替えを用意していると亮さんが戻ってきた。私にタオルを渡すと部屋の外に出た。私は汗で濡れた下着とパジャマを着替えた。


「入ってもいい?」


「どうぞ」


「パジャマとタオルを洗濯機に入れてこよう、僕も着替えたから」


亮さんは洗濯物を持ってまた部屋を出て行った。私は布団に入って横になった。亮さんが戻ってきて体温を測ってくれた。熱は36.8℃まで下がっていた。


「良かった、熱が下がった。このまま朝まで一緒にいるから」


「はい」


亮さんはまた私の後ろに入った。私はすぐに眠ってしまった。


明け方、目が覚めた。どういう訳か私は亮さんに抱きついて顔を胸に埋めていた。亮さんが額に手を当てたので気が付いた。


「熱は下がったみたいだ。よかったね」


私はどうして良いか分からずただ頷いた。どうしよう、動くことができない。こういう形になって寝ていたとは思いもしなかった。


無意識にしたことだろう。幼いころ父にそうして抱きついて寝ていたから、自然とこうなったのかもしれない。


亮さんの身体の温もりが心地よく感じられる。じっとしているしかない。


「ありがとうございました。温かくてよく眠れました」


「よかった。嫌がられなくて」


「小さい時、病気になると父はこうして私を抱いて寝てくれました。すごく安心して眠れました。亮さんは父と同じ匂いがします。それもあるかもしれません」


「前にお父さんが自分と同じ匂いがするとか言っていたと話していたよね」


「そうです。おもしろいですね」


「それから寝る時にしばらく足を動かしていたね。僕の足は毛むくじゃらだから、気になっていやだったろう」


「いいえ、父の足も毛むくじゃらで、いつも動かしてその感触を楽しんでいました」


「それでか、まあ、毛むくじゃらが嫌われなくてよかった」


「しばらくこうしている?」


「はい」


亮さんが背中を撫でようとしたので、緊張した。


「だめ、お願い、そのままにしていてください」


「分かった。このまま、このまま」


亮さんは手を止めて、じっとして動かない。それで私はまた眠ってしまった。


次に気が付くと8時少し前だった。亮さんはもう布団にいなかった。朝食を作ってくれていた。熱を測ると36.8℃だった。大丈夫みたい。起きて身繕いをした。


朝食を食べてから近くに内科医院へ行った。風邪の診断だった。薬を貰って帰ってきた。でも身体が少しだるい。


その日は亮さんが朝昼晩の3食の食事を作ってくれた。思っていたよりも味付けが良くておいしかった。幸いその晩はもう発熱しなかった。


そして、日曜日には何もなかったように二人でスーパーへ買い出しに行った。亮さんがいてくれて本当によかった。

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