それでも罪を犯さなくてはならなかった、世界最後の小説家の物語

嘘は重大な罪悪である。
この物語は虚偽罪という罪を犯し投獄されたある男を中心に展開していく。「嘘は悪いこと」という子供でも分かる論理を広げれば、なるほどこのような解釈もできるのかと心地よい発見がある。着想が非常に面白い。

しかしこの物語の大事なところは、なぜ男は虚偽罪を犯し続けるのか、ということにあるように思う。男は虚偽罪を犯す必要は、実はもう無い。それでもなぜ、罪を重ね続けるのか。きっと自らの存在証明に関わる譲れない部分なのだろう。

男が犯す罪に魅了され、囚われ、変わっていく看守たち。作中に、「包丁は人を傷つけることができる道具だから、取り上げるべきか」という一節がある。これも非常に多くを考えさせられる。

あ、そうそう。署長の最後のセリフ。署長は最後に虚偽罪を犯したのだと私は思っている。直接的な描写が無いのがその根拠だ。そうであってほしいと私は思っている。世界最後の小説家は、今頃は、きっと…

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