あなたの文のワンシーンを私の文体で書く『なつ色のふみ』

 佑佳さんの『なつ色のふみ』より、第五話のワンシーンを書かせてもらいます!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887551991/episodes/1177354054887820326


 前回はワンシーンという概念を忘れてしまっていたので、今回はちゃんとワンシーンにします。

 ……少しだけ、指定された部分より広がっていますがご了承……。

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 わざわざ花火会場にまでくるのはいつ振りのことだろうか。こういった催しにはあまり興味が無かったから、それすらも曖昧だ。よっぽど、気の置ける友人たちと歩いたり、会話をしたりする方が楽しいと思う。あぁ、他に楽しみがあるとすれば、こういった場所での買い食いなどだろうか。

 普段であればそう思っているはずの香織だったが、横に並び立つ後藤のせいもあっていつも通りに思考が回っていなかった。

 二人を繋いでいる手の平が少し痺れているような感覚。熱に浮かされたように視界がぶれる。香織はしっかりと理解できていた、それらはきっと夏の暑さが理由ではないことを。

 

 後藤を横目で見る。純粋なまなざしで花火を見上げる彼の姿が映った。

 やっぱり不思議な人だ、香織はそう改めて思う。だって、口を開いていても閉じていても、どうしたってこんなに惹き付けられてしまう自分がいるのだから。


「炎色反応って、やっぱりああやって勉強した方が覚えられるよなぁ」


 あっという間に終わってしまった打ち上げ花火。もしかすると、花火よりも後藤の姿のほうが見ていたのかもしれないと気が付いて、少し恥ずかしくなる。

 顔の火照りを冷まさなければ……香織は帰りがてらに、露店で冷たい物でも買おうと提案した。一番近いところに氷屋をみつけて、丁度良いなと思いながら互いに一つずつ購入する。そうやってようやく、後藤はいつもの調子で口を開き始めたのだ。


「炎色反応ねぇ……この前のテストにちょっと出たね」

「銅が青だろ? カリウムが赤紫」

「色の事になると後藤くん強いね」

「うん、そこだけ全問正解だったしな!」


 口内に広がるかき氷が香織の熱を冷ましてくれた。もう大丈夫だろうと思って、後藤のほうへ向けて笑みをこぼす。この笑顔は彼だけに向けられたものだ。


「……まずい」

「え? 美味しくなかった?」

「違う、あれ」


 バツの悪そうに、後藤は香織の背の方を指差した。自然とその動きに香織の目線も誘導される。


「A女子の集団だ。最初誘ってきたやつら」

「ヤバいじゃん!」


 思わず力を入れてしまった為に、かき氷の容器が歪んでしまう。香織の焦りは、それのせいで溢れてしまった中身と同じだった。

 手が少し汚れたな。そう思いながらも、香織はゆっくりと彼女らに背を向ける。


「……ね、後藤くん。私と同じくあの子達に背中向けて」


 人混みの中でもちゃんと伝わるように、しかしそれでいて声が大きくなりすぎないように。目線だけ向けて、香織は後藤を急かした。


「ん? おう……」


 つられて後藤も、香織と同じような目配せをしながらそう答えた。改めて香織の横に並び立つ。


「そのまま歩いて」

「わかった」


 コロリ、コロリと、互いの下駄の音が鳴る。

 どこかで子供が泣いている。顔も知らない人の話し声が聞こえてくる。露店の中からは客引きの声が騒がしい。しかしそれでも、その音だけは耳にしっかりと届いていた。香織の存在を、後藤の存在を、二人は確かに感じていた。

 そうしている内に、女子集団とも距離を空けることが出来た。これで、互いに認識する事はないだろう。


「多分あの場じゃ気付かれなかったと思う、こっち見てる人居なかったし。……学校始まって、何もなければ成功だね」

「油断なんねぇよ。もうちょっと進もう」


 やがて人の数も少なくなってきて、会場の端まで辿り着いた事に気が付く。


「な、これからどこ行く?」

「えっ、……考えてない!」

「じゃあイイトコあんだよ。もうちょっと付き合って」


 ニッと笑う後藤の顔が、やけにいたずらなものに見えた。そんな笑顔に気を取られていると、繋いだままだった手の平に改めて力が込められた。ぴったりとくっついたその手に、もう隙間なんてものは無いんじゃないだろうかと香織は思う。

 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。手の汗を気持ち悪いと思われていないだろうか。

 しかし、それでも、この手は離したくない。そんな夏があっても良いじゃないかと、香織は思う。後藤もそう思っていてくれたら嬉しいな、なんて浮かれた事も合わせながら。

 そうして二人は、祭りの会場を後にするのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 以上です!

 いやぁ、初々しいですよねこの二人。にやけますよね。

 私の中学時代ってどうだったかな……と思い出しても、これほどまでに青春してなかったなと羨ましく思いました。

 

 佑佳さんの『なつ色のふみ』ですが、短編となっております。

 とても読みやすく、それでいて読後も気持ちが良い。

 ぜひ! 皆さんも読みましょう!(ダイレクトマーケティング)

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あれこれ落書き帳 たんく @tan-k-

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