あれこれ落書き帳

たんく

あなたの文のワンシーンを私の文体で書く『砂の伝説』

 はとりさんの『砂の伝説』より、第二部・第一章「慟哭」のワンシーンを書かせてもらいます!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887595967/episodes/1177354054887884723


 ワンシーンとは何かを忘れて、このエピソード全てを書いてしまいました。

 どうもうっかりはちべえです。

 いやいやお恥ずかしい。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「エティカ——っ!」


 ジェラークの耳を劈く叫び声が、人々の喧騒を断ち切った。


 先程までの可憐な表情は一欠片として残っておらず、その瞳に色は無い。胸に突き刺さる剣だけが、彼女を支える唯一の力だった。

 その光景がどれだけ受け止めきれないものであったのかは、ジェラークの流した涙が物語っている。彼の心も血を流しているのだ。


 黒髪の男は卑しい笑顔を浮かべて、その剣をわざとがましく引き抜いた。足元に零れた血溜まりに、彼女は力なく沈んだ。

 ジェラークは言葉を失い、ただただその光景を見る事しかできない。


「この俺に、生意気な口をきくからだ」


 剣についた血を乱雑に振り飛ばし、海賊は挑発するようにしてジェラークの眼前へと突き立てる。


「覚えておけ! 弱ぇくせに俺を侮辱しやがる身の程知らずを俺は絶対に許さねぇ。おまえもすぐ、ソイツの所に送ってやる!」

「貴様っ……!」


 その言葉に、激しい怒りの感情で身体が塗り潰されていく感覚を覚えた。突き動かされるまま海賊へと斬りかかる。空気を裂くように、一切の躊躇い無く振り抜かれたその太刀筋は、いとも容易く避けられてしまう。


「邪魔だ」


 男は、腕に抱えていた子供を物のようにして放り投げる。そうして更に余裕が出来たからなのかは分からないが、ジェラークの剣は全て既の所すんでのところで避けられてしまう。己の引き出せる全てを持ってしても、片手一本で受け止められてしまう始末だ。

 敵わない……そんな考えに気を取られたのか、ジェラークは男の攻撃に体勢を崩される。空いた腹の所に、深々と蹴りが入った。堪えきれずに身体は吹き飛ばされる。

 心も、身体も、何もかもが折れそうだ。それでもまだ、ジェラークは地に伏せる訳にはいかなかった。身体を動かす様々な感情が入り混じって、もはや自分でも抑えきれていない。


 もう充分に愉しんだ。これ以上お遊びに付き合っても仕方が無い。男は恍惚とした表情のまま、もう一つの命を刈り取る為に剣を振るう。

 ――しかし、飛び散った鮮血はジェラークのものではなかった。


「何をしている! エフィン」


 雷のようにして現れたその怒声に、男は驚きの表情を見せるも、次第に怒りへと姿を変えていく。

 これで、二度目だった。


「……ハル」


 見ているだけでも痛々しいその光景。光の王は素手でエフィンの剣を掴み止め、二人の間に立ち塞がっていた。

 ジェラークはその一瞬の出来事に何が起こったのか、気が付くまでに数秒かかった。そうしてからやっと気が付く。己の剣が、ハルの背中に突き刺さっている事に。

 さすがのハルでも、その痛みには耐え切る事はできなかった。堪えきれずに表情を歪めてしまうも、王としてエフィンを再度見やる。


「何をしている! ここは、私の国だぞ!」

「煩せぇ、あんた千里眼なのかよ」


 冷静になって考えれば簡単なことなのだが、これだけ人目のある場所だ。きっと誰かが報せを送りに城へと駆けたのだろう。そして後は、ハルの転移魔法でここに割り込むだけ。頭に血が昇っているのは、エフィンも同様だった。


「おまえは私に誓ったはずだ。もう、人殺しはやめると」

「ならあんたは、俺がこいつに大人しく殺されれば良かったってのかよ!」


 自分を正当化させるようにして、エフィンはハルへと叫ぶ。しかし、ハルはあくまでも冷静だった。


「おまえにも、憤る理由はあったのかもしれない。しかしなぜ、この娘を殺した? この娘におまえを害する手立てがあったと言うのでは、ないだろうな」


 ハルがそう言いながら数歩進んだために、背中の剣がズシリと石畳の上に落ちた。その光景を見て、ジェラークはほんの少し前の事を思い出してしまう。エティカの胸に刺さった剣……まさか自分は、この男と同じ事をしてしまったのではないかと。

 王と海賊がなにやら話していたようだが、ジェラークの耳には一つとして届いていなかった。

 

 ハルは見上げていた子供と視線を合わせると、涙を浮かべている事に気が付く。それから真っ直ぐにエフィンの眼を見た。その紫水晶アメジストの瞳には、目に見えて分かる程に失望感が浮き出ている。エフィンはそんな視線から逃れようとするも、身体の自由がなくなっている事に気が付いた。


「おまえに『制約ギアス』を言い渡す。おまえは命の日の限り永久に、不動の地に留まることはできない。大陸であろうと、島であろうと、決して」

「……冗談、じゃねぇ」

「本気だ」


 言葉に宿った力に全身が拘束されていく感覚を感じながら、エフィンは怒りと悔しさに耐える。これは呪いだ。ライデア国だけの話じゃない、この世界に俺の居場所はないのだと理解してしまう。


「クソが、離せっ」


 少しの反抗ですら今はやっとの事だったが、思いっきり今の気持ちを込めてハルの手から剣を引き抜いた。思わずハルも顔を苦痛に歪める。

 その表情をしっかりと見てから、エフィンはこの大地から逃げるようにして立ち去っていった。

 その後姿を悲しく思いつつも、ハルはその場で屈んで、先程エフィンに投げ飛ばされた子供へと視線を向ける。


「私のところに来るかい?」


 驚きと共に目を見開いた子供は、決してその言葉に頷く事はしなかった。それどころか首を横に振って立ち上がり、ハルへと一礼してから男の後姿を追って走り出してしまった。

 浮かんでいた涙は痕となり、その顔には迷いなど無かった。




 しっかりと理解が追いつくまでに、ジェラークはほとんどの感情を忘れてしまったようだった。残るのは悲しさだけ。そのたった一つの感情を頼りに、まだ暖かさの残る小さな身体を抱きしめた。

 上手く呼吸が出来ない。嗚咽がこみ上げてくるばかりで、涙はとめどなく溢れた。

 まただ、またしても理不尽が、オレの大切な物を奪っていく。


「ジェラーク……」


 ハルの声が耳に触れた瞬間、胸の底から湧き上がるものを感じた。それに弾かれたようにして顔を上げ、自然と恨みを込めた眼で彼を睨みつけてしまう。


「どうして貴方は、あんなケダモノを野放しにするんですか! どうしてアイツを殺さないんですか!」

「落ち着いてくれ、ジェラーク」


 エティカの様子を見ようとして、ハルがこちらへと近付いた。

 いくら竜族が治療を得意としていても、もう死んでしまった者まで救うことは出来ないはずだ。それでも、ハルは妹を助けようとしている。

 そう、頭では理解していたはずなのに。


「近づくな!」


 思考と身体が上手く噛み合わない。

 激しく襲ってきた嫌悪感が、ハルを拒んでしまう。妹に触るな。こちらへ近づくな。そんな事ばかり考えてしまう。

 なぜなら、エティカは最後の家族だった。ジェラークにとって、最後の救いだったのだ。


「貴方が、……貴方が妹を殺したんだ!」


 これは、ただの責任転嫁だ。ハルはオレを助けてくれた、責め立てる道理はどこにも無い。そう頭では分かっていても、口から吐き出る言葉はまるで違った。

 そんな恩知らずになってはいけない……しかし、ジェラークの口は閉じてくれなかった。

 やめろ、やめろ、それ以上はいけない。


「あんたがアイツらを始末してくれてれば、妹は死なずに済んだんだ! そうだろ、あんたもアイツも同じ、魔物の仲間じゃないか!」

「ジェラーク」


 名前を呼ばれただけ。それだけなのに、ジェラークの身体は竦み上がった。少し冷静になってから気が付く。自分がどれだけ恐ろしい言葉を吐いてしまったのかを。

 ハルが、これまでに見たことも無いほど悲しい目をしていた。

 見たくない、逃げ出したい。

 途端に罪悪感が身体を襲い、慌ててエティカを抱えてその場を立ち去った。

 自分はあの男と同じような事をしているんじゃないか。そんな言葉が、先程からジェラークの頭の隅で顔を覗かせていたのだ。

 しかし、彼の心を支配したのはハルへの……竜族への嫌悪感だった。

 その内、小さな暗い感情が彼の心に居座った。それはまだ、自分自身でも気が付かないほど小さなもの。




 だからこそ、彼はまだ知らない。

 自分の吐いたあの言葉が、周りの人々にどう聞こえていたのかを――。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 以上です!

 物語を貸して頂いた、はとりさん!

 そしてここまで読んでくれた方、ありがとうございます!


 本編『砂の伝説』は、とても優しい文章で綴られた物語です。

 ぜひ! 皆さんも読みましょう!(ダイレクトマーケティング)

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