マックス調査前哨戦

第11話 土方ドメスコ女史登場

 番組内での「彼」の呼称は「萎不知(なえしらず)」とされることが決められ、本文でもこの呼称を使用することとする。



 ――戦いの火蓋は切って落とされた。番組は擁護派と否定派――両陣営の入場から始まった。



 擁護派には、生き霊界の権威であり、新設したばかりの新興宗教――フェロモンタ教教祖である土方ドメスコ女史がまず最初に姿を現した。


 ドメスコ女史は、もともと徘徊老人のともがらであり、殊にシャーマンの方も堪能であった。


 主に人々への嫌がらせによって、霊能を鍛え抜いてきた彼女は、近頃では幽体離脱による徘徊も可能となったことに味を占め、他人の夢枕に登場し、お祓いの効かない呪いをかけてみたりするのは勿論のこと、更には他人の先祖を騙って――


「最近供養が足りないから祟る」


 などと他所の子孫に言いがかりをつけてみたりすることが、何よりの楽しみであるという。



 また他人の家のファミリー旅行にも生き霊として同行した際、そこで撮られた写真に密かなゲスト出演を行い、その団欒の模様を狙い通りの心霊写真にしてみせるなど――世の家族の思い出に水を差すことにも余念がない。


 このように、孤立気味な老人の僻みを存分に発揮した活動は、世のファミリー層から著しい顰蹙を買い、警察介入の対象として見做された。

 


 だが我が国の刑法では、生き霊に対する刑事罰が存在しないことから、ファミリー層の泣き寝入りは必至とされ、ドメスコ女史の高笑いはファミリー層の感情を著しく逆撫ですることとなった。


 そこでファミリー層は、我が国の誇る特殊民事裁判である「悪魔認定裁判」に望みをかけた。



 悪魔認定裁判は、我が国の「悪魔祓い法」に基づいて行われるが、その目的は基本的に被告の人権を排除することにある。


 即ち超自然的行動によって、世の中に害を為す者が悪魔と認定されると、悪魔である以上、人間とは認められなくなる。

 従って悪魔となった人間には、人権が喪失し、個人を保護するあらゆる法律の範囲外の存在とされることになり、戸籍も抜かれてしまう。


 つまり悪魔を保護する法などないということである。



 従って人としての存在を抹消された悪魔は、同時に悪魔祓いの対象となり、悪魔に対する如何なる犯罪行為も刑法の範囲外とされる。



 ドメスコ女史を被告とする悪魔認定裁判は、現在のところファミリー層が圧倒的に優勢であるが、未だ係争中であるのだという。



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