第9話 天使長でなくなるとき

 彼の弱点について――わたしは古典的ではあるが、他人の精神を削るネット中傷に関して、彼がどの程度ダメージを自認しているかという点で牽制してみることにした。

 だがこの点での彼の脆弱性は薄いものであると、推察はついていた。



Q.ボッキを続ける限り、あなたは見知らぬ多くの第三者から間接的な虐待を受け続けることになるといえるだろうが、その点に関してはどのように考えているのか?



A.マウントをしかける者は、こきおろしを行うことで相手を敗者に仕立て上げ、見せかけの勝利を得たいとするだけのことだ。

 ただボッキをしているだけの人間に、そこまでする彼らはご苦労なことだ。



Q.確かに罵詈雑言に対し、あくまで勃起を崩そうとしないあなたの姿は、それを目撃する人々にどこか神性を帯びた感動を与えることになり、難病の少女もあなたのボッキに勇気づけられ。病気を克服したこともあったそうだが――。


 

A.その少女はわたしに何かしら感動をしてくれたようだが、わたしはただボッキをしているだけなので、それは彼女のただの勘違いだ。


 ただ病気を治そうと思うきっかけを持つのに、中村クスコやマックス美籐のいう「素晴らしい芸術」だろうが、わたしのボッキだろうが、どちらでもよいことではないだろうか? 


 それが許せない人間というのは、自分たちの理由付けに道徳や教育を持ち出すだけのことであり、難病の彼女のことなど最初からどうでもいい話なのだとは思わないか?



――やはりネット中傷など、彼には何ら脅威的価値はないというのだろう。わたしは彼の脆弱性についての詮索を打ち切ることにして、素朴な質問をぶつけて空気を変えることにした。



Q.そういえば放送ではオナニーはしていないのか?



A.以前は数をこなしていたが、勃ち上がり始めてからは全くしていない。



Q.射精欲はないのか?



A.いやむしろ射精を怖れている。



Q.なぜ?



A.射精をしたら、萎えてしまうかもしれないじゃないか? 

 その時、わたしは堕天する気がしてならない。

  即ち天使長でなくなるときだ。



――何気ない疑問を吐いたところで、彼の弱点が明るみになろうとしていた。

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