レジェンド・インタビュー

第4話 ペニス譲りの礼儀

 マックス調査特番の迫る中、ノンフィクションライターであるわたしは、彼に興味を抱くと共に一つの疑問を抱いていた。


 勃起の模様を放映し続ける――ただそれだけのことに、なぜ人々はこれほどまでに魅せられてしまうものなのだろうか?


 わたしはその謎を明らかにすべく、この男にコンタクトを取った。

 そこで取材をしたい旨を告げると、彼は快く承諾してくれた。



 取材日は当方のスケジュールの都合も相まって、マックス調査特番当日に重なってしまった。

 わたしはこの男が多忙極まる状態であることだろうと思い、彼に出会う前に謝罪の電話をした。



 すると――


「わたしはただペニスを勃たせているだけだから」


と、何事もなかったかのように、わたしの不手際を赦したばかりか――


「わざわざこちらまで来て頂いて申し訳ない、君の方は大丈夫か?」


 などと、こちらを気遣う言葉まで送ってくれた。

 


 この日の日程は、本番直前までいつものようにボッキ放送を行い、取材の模様も「隠すものなどない」といわんばかりに、放送するというものであった。

 これらの事情のために特番は生放送で取り行われることになり、その場所も無論、彼の家で開催される。


 従ってこの日の取材は、わたしのライター人生において最も緊張するものとなることが予想された。

 そのために彼はわたしのことを気遣ってくれたのだろう。

 さすがは仁徳で知られたペニス――玄徳ペニスの持ち主である。



 わたしは新卒の頃、隣の席の上司が放つ武勇伝を聞くのが嫌いだったというだけで仕事を辞め、ライター業へと転向した経緯を持つが、この男がもしその時の上司であったならば、わたしの人生も異なるものであったと思う。



 そして彼の家に乗り込むと、当然というべきか、彼のペニスはやはり怒張したままであった。

 わたしが挨拶しても彼自身は黙ったままであった。だがその時、彼のペニスが上下に大きく揺れた。

 それはまさに「お辞儀」であった。


 さすがはペニス譲りの礼儀である。


 そして彼には、一切の緊張がみられなかった。

 いやむしろ緊張の全てをペニスに注ぎ込んでいたため、余計な波動の入る隙間はなかったのかもしれない。

 よく見ると、ペニスが武者震いしているのが見てとれた。



 ペニスのカリスマがここにいる――。



 わたしはペニス仕込みの芸に圧倒されながらも、彼が恒久的な勃起に至った経緯をはじめ、放送時のキャメラワーク、そして勃起による反響などに関する彼自身の所感などについて取材を行い、その調査結果を書き表すことにした。



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