第6話 幼馴染み姉妹との夕餉

 漫画によく出てくる大きなバッテンの形の絆創膏を額に貼りつつ、憮然としてメシをかっ食らう。

 

 午後十時四十二分。

 

 最後の酔っ払いを追い出して『さんばん亭』はようやく暖簾をしまうことができた。

 

 先ほどまでぐるぐると渦巻いていた喧騒の渦がすっかり消えうせた店内は少しばかり寂しい気がする。

 

 俺は相田姉妹とテーブルを囲んで、本日残った食材全部を使った質、量ともに豪勢な夕食をごちそうになっていた。

 

「ゆ、ゆうきちゃん、おかわりいる?」


 俺の隣に座った恵がおずおずと、俺の顔をのぞきこむようにして見る。


 じろりと半眼でにらんだ。


「あうあう~っ」


 恵が涙目になって頭を垂れる。


「ゆうき、おかわりは?」


 もう食事は済ませて、のんびりと新聞を読んでいた聖さんが俺に訊ねる。


「お願いします」


 笑顔で茶碗を差し出す俺。


「ん、たんと食え」


「うわああああんっ! 何で、何で~っ?!」


 頬に米粒をつけたまま、恵が騒ぎ出す。


「嫌われたな、恵」


 山盛りにご飯を盛った茶碗を俺に差し出しつつ、聖さんがあっさりとした口調で言った。


「そんなことないよ!」


 だん! とテーブルを叩く恵。


「いや、嫌いだから」


 茶碗を受け取って俺もあっさりと肯定した。


「ひどいよ――! ちゃんと謝ったのに――っ!」


 恵はテーブルにつっぷして、だんだん! とテーブルを連打する。皆のコップの中の烏龍茶が波を打った。


「でも、まあ今回は割りと早く復活したな。いつもならフラれる度に三日は押入れから出てこないからな」


 新聞をたたみながら、聖さんが恵と俺の方を見る。


「こいつの場合、フラれるんじゃなくて、勝手に自己完結するだけです」


「この根性なし」


「ううっ……。こっ、今回は、その自分で自分の気持ちがちょっと分からなくなったって言うか……」


 俺と聖さんの二人に責められた恵は頬を紅潮させつつも、少し拗ねた口調でそう言った。


「揺れる乙女心か。青春だな」


 聖さんが嫌味っぽく口の端をつり上げて、笑った。


「何よー、別にいいじゃん……」


 顔全体を真っ赤にしつつも、恵が聖さんをにらんだ。


「それって、また自己完結パターンか? そんくらいで学校早退すんなよ。バカ!」


 夕食を食べ終えた俺は恵の後頭部にチョップを入れた。

 

 ごっ! という鈍い音がして、恵は頭をがくん! と前に倒した。


「痛いよ――っ! 反省してるからもうやめてよ――っ!」


「やかましい! 昨日、今日と振り回された俺の身にもなってみろっ!」


 チョップ連打。


「あうっ! 痛い、痛い! ゆうきちゃん、あたしまだご飯食べてる、食べてるからっ! うわああぁぁん! お姉ちゃんも笑って見てないで何とかしてよ――っ!」


 ――こうして相田家のいつもの夜が更けていく。

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