最終話 俺達の恋愛シミュレーションは終わったんだが
次の日の朝、教室で俺と顔を合わせた恵は「おっ、おはよっ!」と下を向いたまま早口でそう言うとそのままダッシュで教室から出てしまった。
そんな俺達の様子を見て、夏海から「あんたたちって本当にまだ子供よね」と達観したご意見を俺はいただいた。
俺は昨日の言葉通り、いつもと変らぬ夏海に感謝しつつ、尊敬の念を抱いた。俺がそう言うと、夏海は「今更、惚れても遅いからね」と笑った。
本当にこいつはいいヤツだ。
結局、その日、俺と恵はしばらくこんな風にギクシャクした感じのままだった。
今までもケンカをしてこんな感じになったことはあったから、いづれは元に戻るだろうが、さすがに今回は長引くかもしれない。
俺は授業が終わると恵を誘って帰ろうかと、恵の席の方を見る。
恵の席はすでに空っぽだった。
ため息をつく。
しかたなく一人で教室を出てぷらぷらとかったるそうに廊下を歩く。
窓からはあいかわらず夏の太陽が顔をのぞかせ、セミは休む間もなく大合唱。
汗で背中に貼りついたシャツを指でつまんではがしながら、昇降口に到着する。
下駄箱を開けた。
パステル・ブルーの封筒が一つ。
***
バイトの約束をまたまたすっぽかせて、桜の木の下へ駆ける。そこにはこないだとは比較にならないくらい真っ赤になったゆでダコ状態の恵が待っていた。
「あっ、あっ、あのっ。きっ、来てくれて、あっ、ありがと、あうっ! 痛っ! ひたいよ~っ!」
恵やっぱりかみまくり。
「あっ、あたひぃ、しょの、えっと、あうっ、ひたい! あっ、ひゅうきひゃんのほとが、しゅき……あわあわっ、えーと、あっ、ひっ、ひたいひいたよ~!」
無言で水平チョップを入れる俺。
「あたっ! ゆうきちゃんひどいよ――!」
「ほら、バカやってないで帰るぞ」
恵の手を強引にとって、俺は校庭を歩き出す。
「ちゃんと最後まで聞いてよ――!」
「もう二十三回も聞いてる」
「え――っ、でも、今回のは……」
「いいから、ほらドーナッツおごってやるから行くぞ」
俺は不満げな顔をした恵の手をしっかりと握って、校庭をかけだした。
恵も俺の手を強く握り返してくる。
風で揺れる葉桜の下、夏の陽光に白く光る地面の上、俺と恵二人分の影が重なっていた。
幼馴染の恋愛シミュレーションに嫌々つき合わされていた俺が、他の女子に告白されたんだが 瀬尾順 @SEO_Jun
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