幼馴染の恋愛シミュレーションに嫌々つき合わされていた俺が、他の女子に告白されたんだが

瀬尾順

第1話 ラブレターは予定調和で

 桜なんて、とっくに散っているのに。

 

 下駄箱の中で発見したパステル・ブルーの封筒。その中身を確認した後、俺は思わずそうつぶやいた。

 

 ここんとこ最近は落ち着いていたのに、また始まってしまったらしい。

 

 最近の気温の上昇が影響したのか、それとも少女コミックにでもまた感化されたのか。

 

 はたまた単なる発情期なのか。

 

 つーか今日はバイトの予定が入ってるんだが少しはこっちの都合も考えろこんちく――

 

「悠木、どしたの?」


「うぉっ!?」


 反省猿のようなポーズで下駄箱にもたれて、ぶつぶつ文句を言っていた俺の思考に背後からの声が割り込んできた。

 

 慌てて半開きの靴箱に封筒と便箋を突っ込んで勢いよくフタをする。

 

「あっ、今何か隠した。なになに?」


 振り向くと、同じクラスの長谷川夏海がにやにやと笑いながら、俺の下駄箱に手をのばしている最中だった。


「こら、見るんじゃない!」


 俺は夏海の手をぴしっと払いのける。


「えっちな本?」


「そんなんこんなトコに隠すか!」


「じゃあ、ドコ?」


「ベッドの下とか……。あっ!?」


「定番すぎてつまんないね。あと、アンタ素直すぎ」


 がっくりとうなだれる俺を尻目に、夏海はさっさと自分のスニーカーを両足に装着した。

 

 その瞬間、制服のスカートの裾とカバンについたマスコットが揺れる。


「どーでもいいけど、そんなトコでボケーッと突っ立ってると邪魔よ。悠木」


 気がつくと、もう昇降口はたくさんの下校する生徒達で満ち溢れていた。

 

 せっかく終業のチャイムとほぼ同時に教室を飛び出したのに、もう追いつかれてしまったようだ。

 

 夏海は俺の肩をぽんと叩くと、「じゃねー」と言って元気に駆け出していった。

 

 俺は靴箱から少し折れ曲がってしまった封筒と便箋、それからスニーカーを取り出した。

 

 めんどくさそうにかかとを踏みながら眩しい外の光に目を細める。

 

 そして、ひらひらと封筒とおそろいの模様のついた便箋を目の前でかざしながら校庭に向った。

 

 初夏から夏本番にシフトしかけた太陽の日差しが、俺の頭を容赦なく照りつける。

 

 ため息一つ。

 

『中庭の桜の木のところで待ってます』


 丸文字で書かれたメッセージが揺れた。

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