第6話 事情聴取にて

「さあ、私はたくさん答えたぞ!今度はお主が答える番だ!」



まだ大して問答もしていないのだが...



「お主...名をなんと申す?」



さっきから口調が引っかかるが答えてやることにした



「俺は山崎 治雄だ。」


「ほう...では、ハルと呼ぶ事にしよう!」



幼馴染と同じ発想に至っているが


まあ、さして気にする事でもないだろう。



「それにしてもハルよ、何故お前は私に届けを渡し続けてくれたのだ?」


「え?」



どうでも良いような質問に裏があるのではないかと疑ったが、


この馬鹿さ加減は演技で出来るものではない


本物、だと断定することにした。



「別に...それは住まいが近いから、届ける役目を背負わされただけだよ」


「ほう...なかなかタテマエ...? とか言うのが上手いではないか」



感心して腕を組んでニコニコしながら

何を言っとるんだこの女は



「いや、そんなとこで建前なんて言わないだろ。本当のことだし、

 それ以外に何かあるのかよ?」



その言葉を待ってましたとばかりに目を細められた。


腹立つわぁ......



「恥ずかしがりやさんめ...良いだろう、言い当ててやる!」



バッとソファーの上に立った


親に叱られるやつだ。



「お前は...私のことが好きなんだろ!?」


指を指されてそう言われた


......って


「はああアアッッ!?」



当然憤慨してこっちも席から立った。


花山はソファーの高さと自身の背丈を合わせて少し俺より高いくらいだった。


それだけで上から目線であるのが余計、頭に来た。



「だれがっ!おまえなんか好きになるんだよぉ!?


 言いがかりもほどほどにしないと名誉毀損で訴え―――」


「よいよい、恥ずかしおってからにぃ~」



そう言って頭を撫でられた。



もうそれで


完全にプッツンしてしまった



「引きこもりど迷惑金持ち娘が調子に乗るなああアアッッ!!」



その小さなおててを払いのけて怒号を飛ばした。



すると一瞬で何かが自分の周りに何かが集まって来た。


その風圧に髪がなびいて視界が塞がったのかと思ったら違った。



誰かの腕が顔に押し当てられている。


驚きから段々と落ち着いてくると

体全体が複数の何者らから拘束を受けているのに気付いた。



何より先ほどから感じるのは後ろから頭に柔らかい感触が



「「「お嬢様、この者をどうしましょうか」」」



あの機械のような声が揃って聞こえる、


視界が塞がっているのは俺の身長のおかげで


咄嗟に首に回す腕が頭の位置にきたからだろう。



だから......


推測だが、先ほどからの柔らかい感触はメイドさんの...



「よせ、私の大事な客人に何をする」



幼女っぽい声には似つかわしくない厳格な響きが聞こえた。


見えないから確認できないが花山が命令しているようだ、


割としっかりとしている所もあるようだ。



しかし実際は止めて欲しくなかったり



「しかしこの者はお嬢様に対して侮辱を――」


「私の言う事が聞けないのか」


聞くなっ!



「も、申し訳ありません」




すると全身を拘束していた力が一斉に解けた。


視界が開けるとそこにはとんでもないことに、

ナイフを持った三人のメイドさんが見えた。



わざわざ右足と左足に二人、

背後にこの屋敷では一番大きそうなメイドさんがいたようだ。



「ふっ、危なかったなぁハルよ」



さっきまでの間の抜けた声だ。



「ほれ、今さっき拘束されていたお前の写真だ」


「え!?」



見せ付けられた写真をぶん取ると本当に俺とメイドさんの姿があった。


にしても大きなメイドさんが俺の首元にナイフを突きつけているのは分かるが、


何故両足にしがみ着いた二人はナイフを俺の股間に向けているんだ



熱くなったものが恐ろしさで冷えた。



でも考えようによってはまるでそういうプレイのように見えてしまう写真で



「まあ、それは破棄させて貰うぞ」



その発言が魔法の宣告の様に写真が燃え始めた。



「エチッ!」



思わず手を離した写真はすぐさま燃え尽きた


絨毯のシミになるんじゃないかしらこれは......。



「分かったな?」


「へ?」



急な確認に魔女だと暴露するのかと驚いた



「あんまり私に逆らわない方が良いと思うぞ?」



そんな脅迫じみた発言と、


とても輝かしい笑顔が、



とんでもない女に好かれたことを、俺に気付かせてくれてしまった。

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