令嬢襲来

第9話 進撃の令嬢

「はあ...」


昨日は疲れた、非常に。


訳の分からないご招待に預かって、

今までの文句の一つでも言ってやろうと思ったら

結局そこの娘を更生させる羽目になるとは......


とは言えまあなんだかんだで愛嬌くらいはあったし、

実際見た目も可愛かった


しかし俺への好意なんぞ、もう昨日中に冷めているだろう。


もう、会うこともない



そう油断したときであった。



今日は晴れ、


曇ることのない廊下際の俺の席まで照らすほどに

明るく優しい日光が教室を包む


しかしその光が陰った。


それも一瞬ではない、不自然なほど暗さが続く



そして顔を上げたとき


治雄は思い出した


金持ちの脅威を


金持ちに虐げられてきた人生の屈辱を



「はっはっはっ!ハルよ、私が来たぞ!!」


窓の先に奴がいた

ベランダの手すりに手を掛けた。


誰かが叫んだ



「ば、馬鹿な!? ここは3階だぞ!?」


「とうっ!」


掛け声とともに乗り込んできた。



急に現れた金髪(幼)女にクラスは騒然とした。

というか昨日は黒髪であったはずなのに何故!?



ガラガラ、とベランダのドアを開けてノシノシと入ってきた。

こ、こっちに来やがる!

やめてくれ!!

馬鹿がうつりそうだ...

何よりこんな登場の仕方をした奴と知り合いだと思われたくない!

俺はずっと日陰男子として穏やかに勉学に勤しんで国公立大学を目指すはずなのに...!!



しかし、顔を腕に埋めただけではまるで奴の目は誤魔化せなかった。



肩に手を置かれたとき、終わりを確信した



「ハ~ル?」


「...」


む、無視してやる!

俺は俺を否定をしてやる!

俺は断じて山崎 治雄ではない!



「ふむ...では仕方ない」


すっと気配が消えた気がする


しかし、カツカツと、やつのヒールの音が教室内に響き渡る...


...ヒール!?



「よく聞け諸君!!

 私がずっと学校に来ず、

 ニート業務に徹していた薫・エリー・花山だッ!!

 私がこんなヘンピな学校に来たのは他でもない目的がある!!」



なにがニート業務だ...!

まだアイツ調教してやる必要がありそうだな......

それにヘンピは余計だ!



「ああ、間違えた。訂正する」


そうそう、ヘンピとか言っちゃダメだし

目的も言わんでいい



「私は、花山・エリー・薫だッ!!」


いや、名前の順番よりもだな...



「そして目的は――」


ああ、言うな言うな言うなそれだけは



「そこにいるっ!!」


あ、見えないけどめっちゃ視線感じる



「山崎 治雄にふさわしい女になるべく来た!!」


アアッあ、あああ、あ~...


腕も机も涙に濡れ始めた



「皆の者ぉ!!よろしくぅ!!」



教室がドッと沸いた

ノリの良いクラスで良かったんだが、悪かったんだが...


ああ、知らないやつが肩をバシバシ叩いてくる~...

やめて~、あの人と俺は無関係ですぅ~...



ガラガラッ



教室のドアが開いて周りが静かになった



せ、先生だ!!


もう最後の希望はあの人しかいない...!!


頼む!!アイツを追い出してくれ...!

ヒール通学なんてヤンキー娘もせんぞ......!!


「ああ、花山さんおはよう。

 上履きに履き替えたら隣の山崎くんに色々教えて貰いなさい」


「うむ、これから頼むぞ担任殿」



順応性が高すぎるこのバカみたいな教室にいることを

改めて憎み、



こんな高校に行くしかなかった運命を取り付けた教壇で

人気者になっている女を

最大の仇敵として再確認した山崎 治雄であった。

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