第10話 報道係共

ああ、ついに穏やかな学校生活は遠きあの日になってしまった......



不本意ではあったさ...


それでもいつの間にか、この高校にやっと慣れてきていたんだ...


それが!



「さあ、ハルよ。皆が待っているぞ」



もう顔を上げてこいつの顔を見たくない


「...誰も俺なんて待っていないさ」


「何を言う、教壇の周りを見てみるがいい」



ほんの少しだけ目を向けると

ほとんどのクラスメイトがそこに集結している



「さあ、記者会見だ」



数分後に



「ええ、ではまず二人の馴れ初めをお聞かせください」



スマホの大量のシャッター音とフラッシュに包まれて

教壇に用意された二つの椅子に座らせれた。


まるで結婚報道のようだ。



「そうだなぁ...積極的にアタックされていたのは私の方であったな!」



周りからは歓声。


いや、アタックじゃなくてプリント届けてただけだから...



「最初は私は毎日軒先に現れるものだから不信に思ったものよ...」



そりゃ、学校帰りだからほぼ毎日だろうが



「それでも山崎さんは諦めなかったと?」


「ああ、雨の日も強風の日も来てくれていたなぁ」



お前の分までうちに持ち帰ったらゴミになるだけだからな



「すいません、生物係の者ですけど質問よろしいでしょうか?」


「うむ、どうぞ」



生物係の仕事しろ、仕事。


後ろの水槽の観察対象がメダカじゃなくて、

ほぼタニシになってるのお前たちのせいだぞ


そもそもうちに報道係なんていないじゃないか


「先ほど山崎さんのふさわしい女になると言っていましたが、


 先ほどの受け答えから察するに

 もう山崎さんに認められているのではないでしょうか?」



おお、鋭いじゃないか


それを観察眼にも生かせよな、メダカ死んでるだろあの濁った水槽。



「うむ、確かに私はハルから好意を受けているが...


 ああ失礼、ここでもいつもの愛称で治雄を呼ばせて貰ってもよいかな?」



ふぅ~やるぅ~


じゃない、こいつを焚きつけるな


それに花山も顔を赤くするなよ...


何より俺から好意を受けている前提で話すんじゃねえ!!



「そう...ハルは私に近寄り、あえて私を引き離したのだ」



周りにどよめきが走る


いやいや、だから真に受けるなって


そもそも近付いたのはお前の招待が発端だろうが



「それはどういうことでしょうか?『あえて』引き離したというのは?」



誰なんだ急に出てきたこいつは...


給食係っぽい太めのお前は食を引き離せ、日常において...



「ふっ...実はハルは奥手そうに見えてかなり恋のプロであってな...


 駆け引きというやつが上手いものよ...」



感心の声が報道...

ではなくクラスメイトから上がった。



...そろそろ声を張り上げるべきか


いつまでもタオルを頭から掛けて表情を隠している場合ではない。


俺は犯罪者じゃないんだから顔も声も出していかなければ言われるがままだ



「花山さんは山崎さんになんと呼ばれているんですかっ?」



身分を名乗らない不届き者からまた質問が飛んだ



「ああ、ハルは私のことをエリちゃんと呼んで――」


「だああアアッッ!!」



俺はその答えに怒り、

タオルのベールを振り払って感情を爆発させて立ち上がった。



「お前らなぁ!誰だか知らねえが、俺たちは赤の他人なんだよ!!


 つまんねえこと言って俺を困らすと、

 名誉棄損で訴えるぞぉ!! あん!?」



そう怒鳴ると教室の空気がシーンとなった。


程なくしてそいつらは



「つまんな」「これだから目クマ下は...」「ツンデレのくせによぉ...」



などと悪態をついて散っていった


...つーかメクマシタってなんだ、非公認の呼び名こそ名誉棄損だぞ...!



「ふぅ...なかなか興のある遊びであったのに終わってしまったではないか」



ホントにこいつは...


文句の一つでも言ってやろうと思って目を向けた時には


満足したのかトコトコと自分の席に戻っていった



そうしてすぐにクラスメイトに囲まれて、


ついでに俺の席も占拠されたことで


教壇に立ち尽くして1時間目のチャイムを待つ羽目になった。

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