第8話 更生へ


言わせてしまった。



しかも、完全に聞き届けたな、とばかりにメイドが睨んでくる。


一時は救ってやろうと思ったまでの存在がここまで憎たらしくなるとは...



「では、ハルよ」



いつの間に背後には花山がいる。



「どうやったら私を好きになる...?」



小さな体で見下ろしてくる目だけは威圧的に光っていた。


そこに今まで金持ちの娘として欲しいものは何でも与えられてきた故の


傲慢な色を感じた。


もうこいつの中では俺の答えがなんであれ、

叶えてやれるという確信から勝った気でいるのだろう


くそっ...このままでは本当に俺がこいつのものになってしまう...



安易なお願いをしようものなら、

その見返りに俺はこいつにゲットされることだろう



なにか、なにか!この金持ちにも叶え難いことにするんだ!



何か......



...そうだ、これしかない



「花山さんよぉ?」


「む?」


「なんでぇお前は、学校に来ないんだい?」


「!!!」



後ろのメイド達は俺のこれから言うことの恐ろしさを察して

震え上がり始めた



「そ、それは学校に行く時間など私にはな、無いからだ」


「理由は?」



明らかな狼狽を見せ始めた花山、


よーし、このまま押し切れそうだぞ



「ん、んーと...」


「そら、どうした? お嬢様がみっともないぞ?」



スッと立ち上がって小さなご令嬢を下に睨む。


「う、うるさいっ! わ、私は忙しいんだ」


「じゃあ、今日の朝から何をしていた?」


「!」



その問いを答えられずにいるところを見ると随分と痛い所を突かれたらしい


初対面の時の様な多量の汗が見えてくるようだ。



「えーと...」


「まさか...」



広々とした自室にはゲーム機やゲームのソフトがたくさん見えた。



「ゲームで忙しかった、とか?」


「...」



あからさまな反応だ、間違いない。


こいつは親の脛をかじる、見た目が少し可愛らしいだけの『アレ』だ。


「つまり『ニート』で忙しいと?」


「わ、私が、に、『ニート』...?」



また悲壮なムードが流れ始めたが俺は愉快だ。


もう従順なメイド達は擁護も何もできまい



「そう!お前はみっともないんだ!!」



ぐはっと、

口を開いて銃弾に貫かれたように花山は豪華なカーペットに膝をついた。



今の言葉はそれくらいの衝撃があっただろう



今まで綺麗や可愛らしいとしか褒められなかったお嬢様が


初めて妬み嫉みでなく、真っ当に非難を受けてしまったのだから。



「そ、そんなことは...」


「...」



その姿を黙って見下ろす。



そうだ、打ちのめされるが良い


現実を思い知るが良い



重い沈黙を目を閉じて感じた。



その静寂続くこと何分か、


そろそろ誰かのすすり泣きでも聞こえてきそうな時


俺も花山の前に膝をついた。



まだ俺の受けた苦しみをこいつに返せたとは思っていない、


だが俺も鬼じゃない。



どのような馬鹿らしい形であれ好意を受けたなら、それを返そう



「...だが、お前はまだ挽回できる」


「...情けはいらぬ」



本当に沈んでいるようだ。



やれやれ......


奮起させてやるか



「もしかしたら、

 学校にちゃんと行けるような女だったら

 俺も関心くらいはするかもなぁ...」



花山の肩がピクッと動いた。



「今の状況から立ち直れたら、より凄いと思うけどなぁ...」



そう残して俺は背を向けて当然のようにメイドの間を抜けて荷物を取り、


かっこつけて肩に掛けて堂々と出口に向かう



ドアを開け放った。


ああ、まだ俺の鼻血の跡が残っている。


生々しいや...ちきしょう



「俺の独り言だ、気にするな」



ニヒルに決めて歩き去ろうとした時だった



「ハリュウウッッ!!」



多分俺の名前を呼びながら突っ込んできたのだと思う。



この女には恥じも外聞も、容赦も無いらしい


今度は口から血が出るかと思うほどの


勢いで腹にタックルしてきた。



「お、お主っ!

 わ、私が学校に行くようになれば、私を好きになるかっ!?」



馬乗りになりながらビービー泣いてそう聞いてくる女を、


誰が好きになるものか...!



そう...言ってもいいが




それは鬼の役目だ。



精一杯の優しさをくれてやろう



「そ、そういうことにしとけ...」



そう聞くと目を輝かせて、ピョンピョンしながら自室に帰っていった。



反対に俺はフラフラと逃げるように屋敷を出て行った。



まさか、


その日が最後の穏やかな学校生活になるとは思わず


自室に帰還すると



俺はぶっ倒れた。


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