第12話 俺たちの日常はここからだ!

「ん...お、俺は...一体」



目を開けるとそこは知らない天井があった


窓が解放されていて風がカーテンを揺らす。


ここは穏やかな病院の一室のようだ...



「はりゅうう!!」



かと思ったら違った。


意識が回復したのに花山が気付いて抱きつこうとしてきた。


手の平で迫ってきた顔を止める



「ahia!」



どっかの配管工みたいな悲鳴を上げた。


咄嗟には母国語が出るようだ、何語だか知らんが



「ひ、ひどいぞハルよ...親にビンタされたこともないのに...」


「何がビンタだ、軽い張り手だろ...

 まったく、柔らかい頬っぺたしやがって...」



ムニムニとした頬を擦っている花山以外にも

周りに人間がうじゃうじゃいる。



「おい、花山...こいつらは何だ...?」


「ん? ああ、この者たちは学校で知り合った者たちで――」


「そんなわけあるか!

 俺を襲ったボディビルダーなんか学生なわけないだろ!」



入院する羽目になった犯人の筋肉ダルマが

部屋の隅で狭そうにシュンとした。


一切可愛くない



「私の使用人だとでも言いたいのか、ハルよ!?


 この者たちとの絆は本物なのだ!!


 いくら婚約者とはいえ友の侮辱は許さな――」


「誰が婚約者だよ!!」



そう言って体を急に起こしたので痛みが体に走った。



「いつっ!」



まだ腹部が痛むのか...


日頃、運動をしていないでゲームばかりしていたせいもあるか...



「だ、大丈夫かハル...?」



オロオロと聞いてくる。


何故かそれが妙に頭にきてしまった



「心配してるならそいつら全員帰らせろ! ほっといてくれ!!」



それを受けてさすがの花山も折れたようだ



「...全員、撤収だ」



その指示通りにサッと帰っていく姿など従順な手下共そのものじゃないか


本気であいつは気付いていないのかもしれないが、


推測としては親が娘を心配で

無理を強いて学校に部下たちを配置したのだろう



ろくに日本の学校を知らないアイツは

年がバラバラな奴がいても当たり前だと


思っている。



だから爺さんやおっさんなんかがいても生徒だと信じ込んでいるんだ...



馬鹿な奴め、


後できっちり教え込まねば......




それと...


少し言い過ぎたかもしれない


謝ったり...なんかはしてやらないが...


まあ後で何かあっても困るし慰めてやるか...



釈然としない気持ちで眠りについた





~数日後~




「ハル!!」



家から出るとデカい車から花山が飛び出して来た



やれやれ...



「ストップ!!」



手を前に突き出して制した


今度は俺の手のひらに顔は収まらず、急ブレーキを掛けられたようだ。



「す、すまない...まだ病み上がりであったな...」


「ああ、そうだな。お前の使用人のせいでひどい目にあったなぁ~」


「うぅ...」



あの者たちが使用人であったことは、この数日の内に知ったらしい。


犯人が花山なわけでも無いのに罪悪感を募らせていたようだ


反省までしていてあのお嬢様がまるでしおらしくなってしまった。


...正直ちょっぴり小動物のような可愛さを感じた



「まったく...」


「あぅ...」



頭の上に手を置いてやった



「学校まで送ってくれたらチャラにしてやるぞ?」



その言葉に目を輝かせて顔を上げた


尻尾が生えていたら千切れんばかりに振っていそうだ。



「も、もちろん! ハルと登校するのが夢だったんだ!」


「ふっ...夢が出来るのが早すぎるだろうに...」



そうしてはしゃぐ花山に手を引かれて俺は高級車に乗った



これからこのトンデモお嬢様に振り回される日常が

どうやら始まっちまいそうだ


どんなに大変なことが起こるやら...



そうして窓から見上げた空は晴れ渡っていて、

反射して写る自分の顔は存外にこやかだった...。






「さあ!今日は私とハルの共同生活の門出だぁ!!


 運転手よ、派手に頼むぞ~!」


「roger」


「お、おい法定速度は守ってくれよ?」





その後、警察に違反切符を切られたのはまた別のお話......

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