第17話 勝利の美酒エンド

「ん...ここは...?」



この白い天井...


知ってる天井だ。



「おお、ハルよ...目覚めたか」


「花山...」



手が握られている



「ずっと付き添っていてくれたのか...」


「当たり前だ、私はハルの婚約者なのだから...」


「ああ、そうか...これで安心して寝られる...」


「うん...ゆっくりとおやすみ...」



そうして目を瞑って


またしばしの睡眠を取ろうとした...



その時だった


「ん?」


「どうしたハルよ...?


 早く夢の中に――」


「何が婚約者だ、馬鹿野郎!」



正気に戻った


長いこと寝続けていて

こんなふざけた女が吹聴したことを信じるところだった



というか握られている手がずいぶん湿ってる



「は、放せっ! なんでそんなデブでもないのに手汗かいてんだよ!」


「何が嫌なのだ? 日本男児はJKの汗でも興奮するのではないのか? 


 今なら両手で包んでやるぞ」



どこぞの民族雑種的に汗かきなのか、


加えられた片手もすぐ俺の手の甲を湿らせた



「よ、よせ!」



掛けられていた白い毛布を花山に放り投げる



「うおっ! 元気いっぱいで安心したぞ!」


「誰のせいだと思ってんだよ!!」


「誰のせい...?


 あ、そうだ!」



白い毛布を剥いで嬉しそうなアホ顔が出てきた



「な、なんだよ」


「お前に魔女の一撃を喰らわした教師だ!」


「そ、染井先生がどうしたんだよ」



思い出すだけでも恐ろしいし、


帰ったらあのプリントの束が待っていることを思い返すと


意識を失いかけた



「奴はイドウさせておいたぞ!」


「い、いどう...イドウ...移動...異動!?


 学校移させたのか!?」


「うむ! 奴はハルを入院させてしまったからな!」



じ、自慢げに言ってやがる...!


何て末恐ろしい娘なんだ!



「私がうちの法の番人達に訴えさせて


 異動先は緊急手配であったため、どこぞの不良の巣窟の学校になったが...


 仕方なかろう!!」



...逆にあの人にとっては生きやすい環境なのかもしれないな



「さあ、ハルよ! 早く良くなって学校に来いよ!!」



そう言ってやけに元気そうに去って行った花山を見て一つ疑問が浮かんだ



「おい...待て、花山...」



俺のマジボイスに花山が危険を察知してゆっくりと向いた



「な、なんだハルよ? わ、私は忙しいのだ!」


「これからみっちりゲームをしに帰るから、とか言わないよなあ...?」


「!!」



あからさまな反応に鎌かけは大成功だったようだ



「まさか...俺が休みの間お前...学校を休んでいるな?」


「え、えええっっととっとそっそそそのおお~~...?」



震えで声が扇風機星人だ



「出でよ、ビル!!」



大声で呼ぶとやはり巨漢が来た



「ビルよ、こいつが俺の休養中


 学校にいかずゲームをしていたら、そのゲームを叩き壊していいぞ」


「なっ!?」



花山が大急ぎで枕元に駆け寄ってきた



「ず、ずるいぞハル! 

 ビルはお前に負い目を感じているから命令を聞くだろうと思って...!」



ビルは確かに困っているが俺の言い分の方に揺らいでいるようだ



「ビルだって思うよなぁ...? 


 ずっとゲームばかりのお嬢様はこれから先大丈夫なのか...って」



彼は花山を見ながら目を泳がせがらもゆっくりと頷いた



「そ、そんな...」


「ふっ...


 お前の部下にもしっかりとお前のことを思うからこそ


 憎まれ役の青鬼になってくれる優しい奴がいて良かったじゃないか...?」


「は、ハル...! 貴様ぁ...!!」


「ビル、俺と言う怪我人を襲わんとする女を摘み出せ」



飛び掛かってきた花山を流石の速度で本当に摘み上げた



「は、放せ! ビル!! よ、よくもうちの部下をたぶらかしたなぁ!?」


「はっはっは! 悔しかったら学校で帝王学でも学ぶことだなぁ!!」



そうして花山は連れて行かれた



というか帝王学ってなんだ...?


俺も知らずに口走ってしまった


まあ、人心掌握とかも入っているだろう



そんな小さなこと!



この勝利の余韻の前に気にはならない



初めてあの女を丸め込めたようで、



俺は静かに独り言ちた



「良い夢が見られそうだぜ...」




そうして久しぶりに心地よい眠りについた......


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