1-2 冒険者になって宿屋を目指そう

1話の前書きで書いた様に読み飛ばした人の為のあらすじ。




・将来幼馴染と義妹が一緒に宿屋をやってくれると結婚の様な事を言ってくれる



・幼馴染が剣の聖女だと発覚し王都へ行き、勇者と共に学園生活



・幼馴染が勇者に熱を上げる



・キレた義妹も学園へ



・義妹も勇者を本物と認め彼にべったり



・三年後に二人は勇者様と一緒に旅へ



・一人残された主人公は嫁探しの為に学園へ行かされる



・その間に実家の宿屋が村ごと戦火に呑まれる



・帰る場所も来年の学費もない



・どないすんねん←今ここ







 ユーノ先生から衝撃の事実を聞かされた後、学園の事務室で先生と一緒に今後の説明を受けていた。


「とりあえず、一年分の学費は受け取っていますので、今すぐ辞めて貰う事はありませんよ」


 事務方の女性の説明に少し安堵する。いますぐ追い出され下手すれば孤児。等という事はないらしい。


「けれど来年分の学費は当然ありませんので、来年になれば自動的に退学になります。もし魔術科や内政科、冒険科の特待生ならばいろいろと優遇出来るのですが、一般科ではお支払いして頂く他にありません」


 バッサリ切り捨てる事務方に先生が食い下がってくれる。


「事情が事情です。半額でいいから援助して貰えるなど当てはありませんか? ほら、貴族様の援助などがーー」


「それが特待生に使われています。しかし一般科にそもそも特待生制度はありません。残念ですが、退学後を考えた方が良いでしょう。あ、ちなみに早期に退学しても学費の返還はしておりませんので悪しからず」


 今度こそ事務方に突き放され、俺と先生は廊下に立ち尽くした。


「ごめんよ。先生の力じゃ……」


「まぁ、事情が事情ですから」


 だがそうなると来年までに学費金貨一枚を稼がなくてはならない。


「無理やん」


 一年で学生が金貨を稼げたら普通は宿屋やってないわ。俺はやるけど。


「正直な話、ロック君。僕は残り一年は学費を稼ぐのではなく、退学後の仕事を探すのに使った方がいいと思う」


 確かにその方が遥かに現実的だ。そもそも今のうちに手に職、或いは貯金を作っておかないと浮浪者まっしぐらである。


「自分もそう思います。なのでこれから宿屋を回って早速仕事を探してみます」


「そうだね。それがいい。僕の方でもどこか探してみるよ」


「ありがとうございます」


 こうして俺の職探しが始まった。










「冒険者ギルドは初めてかしら?」


 その結果がこれである。


 手当たり次第に就職先を探したが、全て轟沈した俺に、狐耳をした綺麗な獣人のお姉さんが微笑む。

 好きで来た訳ではない。この都市にある宿屋全てにアタックを掛けた結果である。

 しかし仕事が無い。

 大きい所は大抵、関係のある商人経由で見習いがいる上に、中小は雇う余裕がなく家族経営である。


 そうして頭を抱えて歩いていると大きな看板が目に入った。

 そう、ギルドだ。

 ある意味、誰にでも門出を開いている仕事だ。内容は実力主義だが。


「初めてです。登録をしにきました」


 俺はドキドキしながら受付嬢さんと受け答えする。


「新規の子ね。じゃあまず名前、階級、年齢、出身を教えて貰えるかしら?」


「はい。ロック・シュバルエ。平民です。十五歳。アルト村から来ました」


「得意な武器は?」


「正直、戦闘はからっきしで」


「それは……農民よね? 村で武器を使ったりなんかは?」


「いいえ。宿屋の息子だったもので」


「戦闘の経験は?」


「……ありません」


「特技は?」


「時計の調整が出来ます」


「なにそれ?」


 俺はポケットから小さい頃から使っている時計を出して見せた。

 いつもの様に思考へと潜り込む。今回は三つほど進みながら、瞬時に頭に浮かぶ文字を入れ替えていく。


「……なんか、針が物凄い速度で回ったり、いきなり止まったり、巻き戻ったりしてるわね。なにこれ?」


「父から魔導具操作の練習用にと小さい頃に貰ったんですが、詳しい事は知りません。でも魔導具に関しては、何か使えるかも」


 そういうと彼女はカウンターの下からなにやら植木鉢を取り出した。


「ちょっと同じ感じで、この植木鉢を使ってみてくれないかしら?」


 俺は言われた様に植木鉢を触り、同じ様に思考の中へ潜ろうとする。


 ――が、訳が分からない文字だらけだった。


 浮かぶのはいつもの数字はなく、象形文字の様な文字の羅列でさっぱりである。


「もし魔力を正確にコントロールできるなら、芽が出るはずなんだけど…………何も出ないわね」


「…………出ませんね」


 二人の間に重たい沈黙が下りる。

 父さん、日ごろの習慣が何の役にも立たなかったんだけど……。


「え、えーと、そうだ。他には何かないの? これなら出来る! ってやつ」


「帳簿とか書けます」


「え? あ、うん。凄いわね。他にはないかしら?」


「オリジナル料理のレパートリーは百を超えます」


「なんでそんな事になってるのよ……」


「宿屋の飯は最大のアピールポイントなので日々試行錯誤して開発してるので」


「それ、もうコックじゃダメなの?」

  

「料理を真似されると宿屋の優位性が薄れてしまうのが怖くて……」


「ならもっとこう、実用的なのは?」


「あ、ベッドメイキングできます」


「はいはい――」


「二秒で」


「すごっ!? どんだけ練習したのよ!?」


「息をする様に整えらますね。むしろ触れた瞬間、整ってます」


「凄いじゃない! …………冒険者には何の役にも立たないけど」


 受付嬢さんの一気に現実に戻ってきた。


「…………ねぇ、本気で冒険者になるの?」


 俺は時計をポケットに仕舞い首を縦に振る。

 するとお姉さんが真面目な顔になった。


「はっきり言うわ。冒険者の大部分は貧しいのよ。安定した収入はないし、武具にはお金がかさむし、一つの失敗で働けない体になったり、下手すれば死ぬわ。私はあなたがなんでこの仕事を選んだのかは知らないけど、生半可な覚悟なら辞めた方がいい」


 物凄くド正論だった。

 色んな仕事があるけど、どんな仕事にも良い面と悪い面がある。

 これはその悪い面の話だ。そして下手すれば悪い面だけを見せ続けられる仕事でもあるのだろう。


「ご忠告ありがとうございます。それでも俺には夢があるんです。そのためにはお金がいる。今の俺にできるのが冒険者なら、それを頑張るだけだと思っています」


「ちなみに夢って聞いてもいい?」


「はい。宿屋になりたいんです」


 するとお姉さんが噴き出した。

 確かに変な夢だと言う自覚はある。けど何も笑う事はないじゃないか。


「あはははっ、ごめんなさい、ごめんなさいね。馬鹿にした訳じゃないのよ。ただ、普通みんなSランク冒険者になりたい、英雄になりたい、最強になりたい、自由気ままに生きたい、金持ちになりたい、って夢を語るのに、宿屋になりたいって人は初めてで、なんかおかしくって」


 お姉さんが目尻の涙を拭うと、最初の様な笑顔を浮かべた。


「いいわ。合格、なんて偉そうに言う訳じゃないけど、自分は特別だ。なんて変な勘違いしてないし、夢の為に生き急ぎそうにもないし、うん。あなたなら身の丈に合った冒険者になれそうね」


 と、急に褒めてくれた。どうやらさっきの問答は、危険じゃないか確かめていたらしい。


「まぁ、あくまで目標は宿屋なんですけもね」


「ふふっ、そうね。それでこれからギルドカードを発行するけど……それ学園の制服よね。先生からの証明書って持ってたりする?」


「あっ、あります」


 俺はユーノ先生に就職先を探すに当たって、王立学園の生徒であるという直筆の証明書を貰っていた。


「良かった。これがあれば学生は無料で公認冒険者ギルドカードを作れるわ。ほんとなら冒険者ランクD級以上でなければ作れないし、登録料も銀貨十枚するのよ? お得よね学生って」


「高っ!?」


「そりゃそうよ。D級から上は公認……つまり公的な身分証にもなるんだから。簡単には作れないし、王家の鑑定には遠く及ばないけど、ザナト冒険者規格のステータスが分かるわ」


 ステータスと言うのは、その人のギフトや魔技、魔術や生命体としてのレベルを目に見える形に表したものである。


 特にザナト冒険者規格は、王家の鑑定を元に鬼才の魔術師ザナト氏が冒険者一万人ものデータを使い、血と魔力の差異から該当する能力を突き止め体系化したものだ。


 それが組み込まれた魔導具こそがギルドカードであり、血と魔力をギルドにある専用の魔導具に込めれば、その人間のステータスが表示される。


 ただ王家の鑑定と違い絶対ではないらしい。


 あくまで一万人の冒険者のギフト、魔技、魔術とジョブが元になっているので、そこに含まれなかった能力などは表示されない。

 またこれはあくまでザナト氏が冒険者の為に作って一般公開した規格であり、帝国の帝国式魔術規格や共和国の亜人種特能規格等も存在する。

 そのため帝国と冒険者と亜人種で同じ能力なのに、違った名前で表示されるものも極稀にあるとか。


 そんな訳でD級以上のギルドカードは一人前の証なのだ。なお新参のEランクや、刑罰などで強制降下されたFランク等は別のカードが支給されるらしい。


「にも関わらず、無料かつ駆け出しのE級でも公認のカードを作れるのは学生だけの特権なのよ。そういう訳で早速作るから、ちょっと手をここに置いてくれるかしら」


 俺はお姉さんの指示に従いカウンターの上の水晶に手を置いた。


「これでおっけーよ。あとはこの水の中に血を一滴垂らしてくれるかしら」


 渡されたナイフで指先を少し切って、差し出されたお皿に血を垂らした。

 するとお姉さんは取り出した鉄板らしきものを水晶に当て、次に血が入った水に浸した。


 彼女は俺にそれを差し出す。


「はい。これがあなたのギルドカード。そこの水晶に当てると、あなたのステータスが表示されるわ」


 受け取った鉄板を言われるままに水晶に当てると、文字が浮かんできた。


 名前 ロック・ムラマツ・シュバルエ

 ジョブ 宿屋(レベル3)

 冒険者ランクE

 レベル1


「ムラマツ? え、俺にミドルネームなんてあったの? そんな事まで分かっちゃうなんて凄いですね…………でも、ステータスの内容ってこれだけですか?」


「そうよ。だってあなた、ギフトもないし魔術も魔技も何も習得していないでしょう」


 それもそうか。素人中の素人なのだから仕方ないかもしれない。


「とりあえず登録はこれで良いわ。まずはギルドでやってる説明会と、無料の訓練指導を受けると良いわ。説明会はこれから私がやるからいいとして、訓練指導は手の空いている冒険者が一週間、少ない時間だけど訓練してくれるの。ちなみに期間は一週間だけど、受けてくれる人がいれば何度でも利用できるから、当分は何度も受けて鍛えることね」


「凄いですね。無料で受けられるんですか?」


「ええ。けど普通はお金がないから、まずは仕事ばっかりになり易いのよ。その点、あなたは学生だから最大限利用すべきね」


 良かった。流石に登録が終わりました、さぁどうぞだったらどうなっていたか……。


「それじゃあ早速、説明会するけど大丈夫?」


「大丈夫です。お願いします」


 俺が受付嬢さんからカードを受け取り、彼女の後を付いていく。


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