1-10 合同パーティーVS陸竜アロ
「暇ねぇ」
「暇ですね」
「暇ですわね」
順にペッタンさん、俺、ユースティ様である。
陸竜らしき足跡を発見した俺達は、その場でキャンプを張り、まず最初にもし陸竜と遭遇した場合の戦術確認と役割分担を話し合った。
それからメンバーを三つ分けて交代で見張りをしている。
なのだが流石に寝る訳にも行かず暇なのだ。
ペッタンさんは弓の手入れを始めるし、ユースティ様は本を読み始めた。
なので俺も時計を取り出して、いつもの様に意識を潜り込ませた。
この時計、実は昔に父さんから「この時計を自由自在に扱えないと、宿屋は出来んぞ」と言われ、毎日の様に潜り込んでは謎の言葉とその組合せを、必死になって解いた思い出がある。
それこそ寝る間も惜しんで五年近く掛けた。
そして三つの盤面を解き明かして、父さんに見せに行くと「……嘘だろう? 冗談だったんだが」と爆弾発言を落とした。
あの日、生まれて初めてキレて家出した。
確か結局、一週間掛けて町へ行こうとした所をリビアと父さんに見つかり、全身拘束されて家まで運ばれたんだっけ。
おかげで将来、宿屋を継ぐ事を了承させる事が出来たけど、あの頃は我ながら馬鹿だったと思う。こんな時計が宿屋と関係があるはずがないのに。
でもまぁ、それ以降も遊び道具感覚で暇を見ては、時計の中の文字列を解いていた。おかげで今は七階層全て解いてしまったので、今は如何に短時間で解けるかに焦点を当ている。
「――あら? なんですの、それ?」
そうして俺が時計に意識を集中していると、いつの間にか本を読み終わったユースティ様が俺の時計を見ていた。
「時計、ですけど?」
彼女は吸い寄せられる様にこちらに歩いてきて、目の前で両膝を着く。
「これ、ラッグスパズルではありませんの? あなた、魔術師でしたの?」
はい?
ラッグスパズル?
「なんですかそれ?」
「魔術修得用の魔導具の事ですわ。あなた、この中にある魔術言語のパズルを解いているのではなくて?」
「えっ、これ魔術言語なんですか?」
「知らないでやっていたんですの? これは本来、見習い魔術師が使う初心者用の練習アイテムですわ。貸して下さいまし」
そう言われたので渡してみた。
「これは中に描かれた属性に適する駆け出し魔術師が使う物でして、この様に私からすれば玩具のような――ん、んん?――なんですのこれ? こんな言語、今まで見たこと――え? はい? んんん?」
彼女は首を傾げながら時計とにらめっこしている。
が、しばらくして「こほんっ」と咳払いして、返してきた。
「解けたんですか?」
「ま、まぁ、私が簡単に解いてしまうと貴方の楽しみを奪ってしまう事になりますから、これくらいで許して差し上げますわ」
解けなかったのか。
俺から生暖かい視線を受け、彼女は少し顔を赤くする。意外と可愛いなこの人。
「そういう訳ですから! 貴方はこれからも魔術の鍛錬に励むとよろしいですわっ!」
「でも俺、ステータスに魔術が何も表記されていないんです。だから魔術なんて使った事もなくて」
「――なんですって?」
彼女は信じられない者を見る様な目で俺を見る。
「貴方、それを使えるのに魔術が何も使えませんの?」
「はい」
「どういう事ですの?」
「どういう事なんでしょう?」
そんな風に首を傾げあう俺達をペッタンさんがジトっとした目で見てきた。主に俺を。
「あなたってつくづく……いえ、何でもないわ」
そんな感じで時間は過ぎていった。
で、結局。
結果的に長い様な短い様な半刻は何も起こらなかった。
「戻りやした。けど、足跡が血溜まりで不自然に消えてまして、周囲を探っても何も居らず、ヌーも襲ったヤツもレイスみてぇに蒸発しとりました。ただ――」
「なんだ?」
「近くに人間の足跡が複数。見つかりやしたよ。もしかしたら冒険者のパーティーがいるんではないですかね?」
「既に討伐されたのか。何と言うか、モヤモヤした終わり方だな」
黒髪と眼帯さんの話を皆で囲んで聞いているのだが、確かに何とも不安が残る結末だった。
「仕方ない。手練の人間がいるが、敵性という事は無いだろう。このまま――」
そうして引き上げようとした時だ。
――GYOOOOOOOOOOOO!!
明らかにヤバイ雄叫びが聞こえた。
全員が武器に手を掛けて振り返る。
すると姿を隠そうともせず、頭に角の生えた前傾姿勢の二足歩行する巨大なトカゲが、狂った様に遠くの斜面を駆けてくる。
まるで全員が揃うのを待っていたかの様なタイミングだ。
「クソっ! 死んだんじゃねぇんですかい!?」
「やっぱりアロかよ! ってかB級だろ。勝てんのかよ!」
場が騒然となる。けれどアロと呼ばれたトカゲは速度を緩めず距離を詰めてくる。
「総員、ここでやるぞ! 打ち合わせ通りだ!」
黒髪の指示で眼帯さんの帰還までの間、打ち合わせした対地竜の陣形を組む。
アロは特殊な攻撃をしない。だからこそ、何より恐ろしいのはその角と巨体による突進。これを防げなければ誰かが死ぬ。
「おうよ!」
「分かりました!」
プティンと女騎士さんが前に出る。けれど二人でもアロの突進を止められるとは思えない。
必要なのは目くらましか障害。
「――喰らいなさい!」
「ひっさあああああああつぅ! アースバウンドォォォォォォッ!!」
女騎士さんが白い布の様なもので巻かれた球体を投げる。
そこにプティンが魔技と呼ばれる魔力によって強化された技を繰り出す。
彼の剣は地面に叩き付けられると同時に、地面を爆発させる。それに連動する様に白い玉も爆発し、煙が広がる。
だがアロはそれでも突進を緩めない。
そのまま煙幕の中を走り抜ける。 が、そこには最早誰もいない。むしろ。
「今だ!」
黒髪の合図で俺は、ノッポさんと共にアロの進行上に、魔技により強化したロープを引き上げ、木にくくりつける。
そこにアロが突撃する。
見事に引っ掛かったアロはよろめき、倒れはしなかったが足を一瞬止める。ちなみにロープは今の一発で千切れ木は薙ぎ倒された。
「アイスロック!!」
「――逃がさないわよッッ!!」
その隙にユースティ様の魔術が炸裂し、アロの両足を凍らせる。
そしとて凍ったいない太ももへ、ペッタンさんの矢が二本突き刺さった。
痛みで暴れるアロ。だが足は完全に止まった。
「二発目えええぇぇぇぇぇぇ!!」
「しっ!」
そこにプディンのアースバウンドが腹に叩き込まれ、アロが目に見えてよろめく。
さらに反対側からノッポさんの魔槍が走り、立て続けに右目、左目をピンポイントで突き刺す。凄い槍操術だ。
だが痛みで錯乱したアロは口を開けて近くの物に噛み付く。それによって咥えられた二本の大木を支点に、なんとアロはアイスロックを無理やり破壊してきた。
「引けっ、前衛!」
イケメンの指示も虚しく、アロの巨大なシッポが周囲を薙ぎ払う。
そのせいで前衛のノッポさん、プティン、女騎士さんの三人が弾き飛ばされた。
そして音か匂いかで察知したのか、後衛のペッタンさんとユースティ様の所へ走ろうとする。
「皆さんっ――白を司る女神よ、我が祈りに応え傷を癒し給え!」
だが即座に神官ちゃんのヒールが近くにいた女騎士さんとノッポさんに炸裂し、二人が立ち上がった。
「…………こちらだ蜥蜴!」
「行かせません!」
二人は即座に槍と剣でアロを撹乱する。
特に両目を瞬時に潰されたノッポさんの槍攻撃には敏感に嫌がり、その場に再び足を止めた。
その隙に足元へ動いた女騎士さんが、魔技の輝きを伴って片足を剣で凪ぐ。
これには堪らず、アロの膝も崩れ落ちる。
「今ですっ!」
「任されたっ!」
そして痛みにその巨大な顔を上げた瞬間、その背を駆けて飛び上がった優男の剣が、その頭に突き立てれれた。
こちらも魔技による輝きで切れ味を強化したのか、剣の三分の一程が食い込んだ。
「くっそ、固い!!」
だが浅い。
優男も暴れるアロに振り払われるも、その口に捕われることも無く、無事に着地し彼は距離を取った。
けれど。
「――十分だ」
アロが痛みで無防備に首を晒した瞬間、魔技の輝きと共に懐に入り込んだ黒髪の黒剣が走る。
一閃。
「我が金剛剣、亜竜にも通ったか」
直後、ゆっくりとズレる様にしてアロの首が地に落ちた。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!」」」」
見習い冒険者が合同パーティーとは、B級の魔物を討ち取ったのだ。
大金星である。
そしてその首を落とすという一番美味しい所を取っていった黒髪イケメンが、鼻高々に振り返る。
「ふんっ。まぁ俺に掛かれば――」
だが直後。
空からふわりと黒衣が舞い降りた。
誰もがそれを視界に捉えても、身動き一つ出来なかった。
「……っ?」
そしてそれが何か分からぬ間に黒髪イケメンの背後にふわりと着地し、スパンッ! という綺麗な音と銀色の煌き発した。
そうして――。
英雄となった黒髪イケメンの体から、首が跳んだ。
誰の理解も追いつかない中、顔まで隠した黒衣は告げる。
「我ら“沁黒”。信仰上の都合によりお命頂戴仕った――お覚悟を」
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