第9話七つの大罪
「さて、ここが君たちの新しい家だよ」
フェリウスが言いながら、目の前の豪邸の扉を勢いよく開け放った。中は綺麗に装飾されており、整理整頓がしっかりできている。フェリウスの隣には一人だけメイドが立っていた。名を『アリア』と言うそうだ。
「なあ、何でこんな立派な豪邸に二人しか住んでいなかったんだ?」
「た、確かに。もうちょっと人がいてもよさそうな気もするけど」
俺の問いかけにリリアが便乗した。
「ああ、それはねぇ、ただ単に雇おうにも人が集まらなかったからだよ」
俺たちの問いに飄々と言う。
「それはどうして?」
今度はレントが問うが、アリアさんが口を開いた。
「それはこの方の職業が
「
はいまた発動、レントの『無知』っぷり。いい加減学習しようや。
「はあ、
「錬金術ってすごいのか?」
「まあ、確かに扱うことができれば相当凄いし、生活の役に立つよ。でも、扱うのが難しすぎるんだよ」
「じゃあどうしてアリアさんはここにいるんだ?」
「私はフェリウス様の錬金術に心打たれたのです。この方の錬金術は完成しているのです。他の者たちとは違い、ちゃんと発動できるのです」
「へえ~」
軽いノリで反応してみるが、内心納得もしている。だから熟練度が3もあったのか。俺も気になるし、錬金術を創ってみるか。
「立ち話はこれくらいにして、そろそろ中に入ろうか」
そう言ってフェリウスに手招きされて豪邸に入っていく。
「ここが、食事とかをする居間。で、ここが調理室、トイレ、それとお風呂、で、僕の執務室だよ。二階に上がった先の奥からカイジュ、レント、リリア、アリアの部屋だよ」
紹介された部屋の中を見てみると、家具がほとんど無く、あるのはベッドとクローゼットだけだった。
「じゃあ、昼御飯ができるまでしばらく自由にしてていいよ。ここまで馬車に乗って来たから疲れたと思うから休んでいてね」
その言葉を残し、フェリウスとアリアさんが一階へ降りていく。そして、俺たちは新しい自室へ入っていく。
「さて、他の二人には秘密にしていたけど、皆出てきてくれ」
俺の掛け声と共に、広い部屋の中に幾つもの魔方陣が出来上がり、数秒後には俺の部下たちがそこにいた。
「ルシファー、サタン、レヴィアタン、ベルフェゴール、マモン、グラトニー、アスモデウス、レスレイ。久しぶりだな」
俺がそう言うと、部下たちはそれぞれの反応を見せる。
「皆なかなかに成長してるな。レスレイなんかもう俺のレベルを越えてるぞ」
「有り難き御言葉」
「もうっ、ずるいわ~。私も王様に褒めて欲しいわ~」
そんな甘い声で言うのは色欲の悪魔『アスモデウス』。七つの大罪が内一つ『色欲』を司っている。俺が創った色欲の魔弓と同じ能力を持ちつつ、その色欲の魔弓の上位互換のような力を持っている。因みに姿だけなら褐色の肌を持つ人間の女性と同じだ。ただ、悪魔なので服ではなく、紫色の障気を纏っている。
「ふん、貴様なんぞ新入りだろうが。主に褒めて貰うのにはこの私が相応しい‼」
そう高らかに宣言したのは、『傲慢』を司るルシファー。ルシファーは、『聖邪剣リーヴェン・テウン』という剣を持っていて、左手に持つと聖剣リーヴェンに、右手に持つと、邪剣テウンとなる。両手で持つことで聖邪剣リーヴェン・テウンとなるのだ。つまり、こいつは片手剣と両手剣の両方を扱うことができる。ただ、傲慢を司る故に、何をやっても自分が一番でないと気がすまない性格になってしまった。
「黙らぬか。羽虫が」
静かに怒っているのが『憤怒』を司る魔皇『サタン』だ。こいつは、創るためにわざわざ魔界に出向いて、素体である煉獄の魔皇サタンを殺して、そいつの体と世界中の憤怒の1%で生み出したもんだ。自分の憤怒を力へと変換する『怒涛』と、相手の魔法をコピーする『魔皇の権限』というスキルを与えてある。
「はあ、煩くて眠れやしない。主の命じゃなかったらもう帰ってるとこだぜ」
そう言うのは『怠惰』を司るベルフェゴールだ。大きな翼と牙爪を持ち、敵を畏怖の念にからせる、まさに悪魔そのものだ。こいつは、移動をしないことを前提に闘えるようにしているので、『転移』と、それを沢山行えるような莫大な体力、牙爪術に体術、そして呪いを与えている。他にも戦闘に役立つスキルを沢山与えているので、こいつがいれば百人力だ。
「ふふ、そんな仲良さそうにしちゃって。御主人もあたしも嫉妬しちゃうわ~」
こいつは、嫉妬の悪魔『レヴィアタン』。アスモデウスと瓜二つだが、纏う障気は藍色で、『変幻(海蛇魔)』と、水を生み出し操る『海神』を与えている。
「さて、お前たちは皆強くなった。だからここに全員を呼び出したんだが、また新しくお前たちの仲間を紹介する」
俺がそう言うと、俺の真横に魔方陣が出現し、すぐにそいつが姿を現した。
「わふ」
「「「「「え⁉」」」」」
現れたのは金色の毛並みの狼、『マナガルム』だ。地球の神話に出てくる月を喰らう餓狼なのだが、今はスキルで体の大きさを小さくしている。
「「可愛い~」」
アスモデウスとレヴィアタンは、マナガルムを奪い合うように抱き合っている。
そう言えばさっき紹介し忘れていたのだが、終止無言で座禅を組み何かに集中しているのが『強欲』を司る悪魔『マモン』だ。マモンには、『何か』を引き寄せる『強引』というスキルと、自分の肉体や視認できる物体に魔法や属性魔力を纏わせる『纏魔』というスキルを与えてある。
「こいつはマナガルム。今はサイズを縮めているが、最大でこの屋敷を喰える程の大きさになるぞ」
俺がそう言うとグラトニーが、
「何だと⁉カイジュ、俺にもその力をくれ‼」
と、食い意地が張ったのか、そんなことを言い出す始末だ。
「まあでも、マナガルムは実際に何かを喰う能力を持ってる訳じゃない。こいつには牙爪術と『陰陽』、『月光』を与えた。言わば光を司ってるってこった」
「光だと主⁉それは私の専門分野ではなかったのか⁉」
ルシファーが叫ぶ。いや、お前は闇も扱えるから専門って訳じゃないだろ。
「まあまあ、取り敢えず、こいつは魔界に行かせずにこのまま俺と残るから」
そう俺が言うと、全員が転移していった。因みに現在の七つの大罪のステータスは......。
ルシファー ❮LV. 98❯ ❮職業:
❮ステータス❯
生命力:21,000
体力 :12,400
筋力 :17,800
敏捷 :9,020
知力 :8,600
魔力 :14,500
魔放力:10,900
幸運 :10/15
❮耐性❯
悪環境耐性(熟練度:9),呪い耐性(熟練度:2),聖属性無効,邪属性無効
❮スキル❯
召喚(聖邪剣リーヴェン・テウン),剣術(熟練度:4),飛翔,体術(熟練度:3)
サタン ❮LV. 142❯ ❮職業:魔皇❯ ❮種族:悪魔❯
❮ステータス❯
生命力:126,800
体力 :110,200
筋力 :236,790
敏捷 :9,400
知力 :379,400
魔力 :412,200
魔放力:283,520
幸運 :15/15
❮耐性❯
悪環境耐性(熟練度:9),焔属性無効,邪属性吸収,石化無効,精神攻撃無効
❮スキル❯
怒涛,魔皇の権限,召喚(焔魔剣デプラヴィット,邪纏剣サクリファイス),焔属性魔法(熟練度:5),邪属性魔法(熟練度:6)
レヴィアタン ❮LV. 97❯ ❮職業:
❮ステータス❯
生命力:320,700
体力 :321,480
筋力 :130,780
敏捷 :231,780
知力 :258,900
魔力 :400,100
魔放力:140,000
幸運 :15/15
❮耐性❯
悪環境耐性(熟練度:9),水属性吸収,闇属性無効,氷属性耐性(熟練度:3)
❮スキル❯
変幻(海蛇魔),海神,ブレス(水属性,氷属性),牙爪(熟練度:2),毒牙(熟練度:1)
ベルフェゴール ❮LV. 101❯ ❮職業:
❮ステータス❯
生命力:568,000
体力 :482,200
筋力 :130,000
敏捷 :596,700
知力 :92,700
魔力 :319,000
魔放力:170,820
幸運 :5/5
❮耐性❯
石化無効,毒無効,魔法吸収,悪環境耐性(熟練度:7)
❮スキル❯
瞬間転移,転移,飛翔,牙爪(熟練度:7),体術(熟練度:3),呪詛散布,暗視,
マモン ❮LV. 76❯ ❮職業:
❮ステータス❯
生命力:325,800
体力 :107,800
筋力 :319,300
敏捷 :260,900
知力 :145,200
魔力 :240,980
魔放力:377,100
幸運 :15/15
❮耐性❯
魔法耐性(熟練度:6),呪詛耐性(熟練度:1),悪環境耐性(熟練度:6)
❮スキル❯
強引,纏魔,体術(熟練度:6),固有属性:終焉(熟練度:4)
グラトニー ❮LV. 120❯ ❮職業:
❮ステータス❯
生命力:828,300
体力 :690,540
筋力 :470,200
敏捷 :158,300
知力 :217,900
魔力 :610,090
魔放力:379,020
幸運 :5/5
❮耐性❯
魔法無効,物理攻撃耐性(熟練度:6),精神攻撃無効
❮スキル❯
暴飲暴食,胃酸強化,
アスモデウス ❮LV. 57❯ ❮職業:
❮ステータス❯
生命力:98,060
体力 :89,470
筋力 :99,920
敏捷 :101,060
知力 :127,900
魔力 :217,200
魔放力:229,120
幸運 :15/15
❮耐性❯
精神攻撃無効,障気吸収,毒無効,魔法耐性(熟練度:3)
❮スキル❯
色欲の魅了,召喚(魔弓),障気放出,纏障,具現化(障気)
取り敢えず全員のステータスが一万代を超えている。スキルや耐性も強力なものが増えていた。特に無効や吸収などは、あれば戦闘に大いに役立ち、相手の手札を減らす手段となる。
「よし、じゃあこれからも修練に勤しんでくれ。俺もぼちぼち強くなるよ」
そう言うと、部下たちは転移のスキルを使って去っていく。レスレイを除いて。
「ああ、ちょっと待ってくれ。レスレイ」
「?何でしょうか?」
「この前は助けてくれてありがとな」
この前の事件とは、俺が無茶をしてドン・オーカーの肉を喰おうとして気絶してしまった件だ。レスレイの毒魔法の応用で、なんとか助かったのだ。
「有り難き御言葉。ですが、臣下が主人を守り、助けるのは当たり前なのです」
そう言いつつも、顔を綻ばせながらも転移で魔界へと帰っていった。
「じゃあマナガルム。そろそろ飯だから一緒に行こうか。皆にも紹介しなきゃな」
マナガルムは、金の毛に包まれた小さな体を揺らして、喜びの感情を表現した。スキルを使って大きくなれば、人の言葉を喋ることができるが、大きすぎても不便なので、このままのサイズで生活することになる。
「あ、アリアさん」
「どうも。カイジュさん、下で御食事を御用意しております」
「
「いえ、どういたしまして。お二方は外の森で魔物を狩っていたので、一足先にご案内いたしました」
「そうですか」
「そう言えば、その金色の狼は一体?」
「こいつは俺の従魔のマナガルムです。大人しいですし、戦闘になればかなり強いですよ」
「そうなんですね。とても可愛くて、つい撫でてしまいそうです」
そんな雑談をしながら、俺たちは食堂に来た。フェリウスと二人はもう席に着いていた。きっと俺を待っていたのだろう。
「それでは、カイジュも来たことだし食べようか」
フェリウスがそう言い、食べ始めると、アリアさんも含めて全員が食べ始める。
献立は、主食となるロールパン、主菜のタレ付き猪肉、副菜に温野菜サラダといったところだ。これはすべてアリアさんが作ったらしく、とてもうまい。俺たちが誰も料理が出来なかったというのもあるが、アリアさんはメイド兼料理人なので、プロは流石、といったところか。
「で、三人は何をやっていたんだい?」
「俺とリリアは魔物を狩ってレベル上げですかね」
「へえ。何を狩ったんだい?」
「ゴブリンとその上位種のハイゴブリンです」
ゴブリンというのは、魔物の中で亜人種と言われていて、小さな人型の魔物で、緑色の肌をしている。汚い布を腰に巻き、どこから集めてきたのか、銅剣や錆びた武器を持っている非常に頭の悪い魔物だ。上位種のハイゴブリンは、ゴブリンよりも筋肉量が増し、力が強くなったゴブリン。統率力があるので、味方に二、三体のゴブリンを従えている。
「ふむ。となると森の中にゴブリンの巣があるかもしれないね。今度君たちに調べて貰おうかな」
魔物の巣とは、魔物が繁殖し、居住する場所のことで、上位種のゴブリンナイトやマジシャン、大きな巣であればジェネラルやキングがいることがある。キングは、ゴブリンの最上位種で、強力なスキルを数多く所有している。また、知識があり言語を理解出来るので、人間との会話も可能である。
「で、カイジュは何をしていたのかな?それとその可愛い狼君は何者なのかな?」
「えーっと、俺はこのマナガルムを転移のスキルで喚んで、色々と可愛がってました」
勿論大嘘だ。マナガルムを喚んだのは事実だが、前に創った時に充分可愛がったので、今回は全くやってない。
「へえ。可愛いじゃない。カイジュの従魔でしょ?どの種類の魔物なの?」
確かに気になる、とアリアさんや他の二人も頷いていた。
「いや、こいつは固有種だと思う。金色の狼なんて見たことないからな」
「ふーん」
そもそもこいつは俺が創ったわけだから、固有種に決まっているのだが。
というか、最近になって気が付いたのだが、想造のスキルを使って何かを創ると、とてつもない疲労感に襲われる。知天脳によると、俺が何かを沢山創ったせいで、制約のようなものが出来てしまったらしい。
何かを創ろうとすると、体力が最大の55%位減るらしい。だから、連続して創るためには、何か工夫が必要となってしまった。
「でも、そいつも俺たちの家族になるんだろ?別にそんな細かいこといいじゃんか」
「レント、良いことを言うではないか。我々新たな家族に乾杯‼」
と言って、グラスに白ワインが注がれた。昼間っから飲むらしい。騒ぐのはいいが、大丈夫なのだろうかこの家族。
「てか、私お酒飲めないんですが‼」
「あ、俺もだ」
リリアとレントがカミングアウトするが、フェリウスもアリアさんも気にせずに味わっている。俺も暴食の効果で飲むことが出来るので、人生初のワインを楽しむことにしよう。
転移者はいずれ人外に @yaibakamishiro
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