第8話新たな出会い

「なあ、お前ら本当に反省しているのか?」


 俺は半分キレ気味に二人に問う。二人は萎縮し怯えている。


 この二人に何があったのか説明しよう。ほんの数分前のことだ。




「そろそろ上がるか」


 俺は、着替えるために脱衣所に出た。体は湯で濡れているので、タオルで拭き、着替えを置いたところにタオルを巻いて歩き寄る。


「なんか聞こえるな」


 スキル地獄耳のお陰で聴力が格段に、いや、生物的に進化しているので、こういう微かな音も見逃さない。


「そこだな」


 睨み付けたのは何となくで設置した二つのロッカー。あの二つの両方から何かが聞こえる。鼻息か鼓動か。いづれにせよ早急に対応しなければならない。俺は、勢いよく二つのロッカーの扉を開いた。


「は⁉」

「「え⁉」」


 中にいたのはレントとリリアだった。二人はなぜこんなところにいるんだ?というかそういや今の俺って......⁉


「てめえら出てけ-‼」


 俺の怒号とともに二人は部屋から逃げ出した。


「はあ、はあ、ふざけんな」


 俺は急いで着替える。なぜ男である俺がこんなに焦るのか気になるだろう。


 実は俺にはあるトラウマがあるのだ。今は語るべきではないが。それよりまずはあいつらだ。見つけてなぶって縛り上げて問いただす。尋問鬼ごっこの開始だぁ。


 その後はあっという間だった。神眼で二人のいる場所を視て転移し、結界魔法の応用で閉じ込める。俺は狂喜に満ちた笑顔を二人に向けながらいい放つ。


「覚悟しろよ。二人とも」

「「ギャアアアア‼」」


 その後辺りに男女の悲鳴が聞こえた。




 そして現在に至る。俺は二人を土下座させ、創ったスキル『魔神の威圧』で動けないようにした。


「てめえら本当に反省してんのか?あぁ‼」

「ひっ⁉す、すまん。た、たまたまだ。は、反省してる」

「ご、ごめんなさい。あそこがお風呂だとは知らなくて......」


 怯える二人、くっそ嗤える。まあ苛めるのはこれくらいにしてやるか。俺は威圧を解除した。


「ふう。で、何であんなところにいたんだ?」


 俺は若干睨みを利かせながら強めに言い放つ。すると、リリアが答えた。


「え、えっと、暇だったからレントと一緒に部屋を見てみようと思ってたんだけど、たまたまカイジュが出てきちゃったから......。その、何というか、ごめんなさい」

「それはもういい。まあ俺も部屋とか細かい説明をしていなかったからな。それに関しては俺にも非がある」

「本当にすまん。つーか、何であんなに恥ずかしがるんだ?別に俺なら男同士だし気にするようなこともないように思うが」


 クソッ、ツッコんで来やがったか。こいつは馬鹿だがこういうところは抜きん出て冴えてやがる。


「た、確かに気になるかも。でも見た感じ筋肉質でいい体つきしてると思うわよ///」


 何故かリリアが頬を赤らめながら言う。


「っ‼話さなきゃなんねえか......」


 はあ。覚悟を決めるしかないようだ。と言っても、地球にいた頃の話だからそんな鮮明には思い出せないが、トラウマというものは思い出すのも、ましてや話すことなんて流石の俺でもかなり堪える。


「実は俺が、俺たちがもといた世界での出来事なんだが......」




「あれは俺が小学二年生、年齢で言えば八歳位の時に、俺の家が誰かに放火されて燃えちまってな。その時に俺の胸辺り、右胸の部分に刺青みたいな火傷跡ができちまって、しかもそれが偶然竜みたいな形だったもんで、周りに見られた時の反応が凄まじく恐ろしかったよ。俺のことを知る人みんなが俺を貶していったさ。当然小さかった俺はそんな重圧に耐えられる訳がない。親とも相談して診療所に行ったりスクールカウンセラーに相談してみたりもしたが治ることはなかった。勿論心の傷も含めて。年が変わる前にレントが住んでいたとこに引っ越したが、トラウマとして残っちまったんだ。だから誰かに俺の体を見られるのが恐いんだ」


 カイジュの話は壮絶だった。私の知らない異世界だとはいえ、八歳の時に家が燃えて体に一生残る傷ができて、さらに酷い扱いを受けてこれまで生きてきた。


 私だったらとうの昔に心が折れてる。自殺だって考えるかもしれない。そんなことを話してくれたんだ。私は、なにかできるだろうか。何をしてやれるのだろうか。どの口がそんなことを言っているのだろうか。私は、忌み子だというのに。




 はあ、話してスッキリした。予想以上に二人の反応がキツイ気もするが、まあいいだろう。


「さてと、こんな暗い話はもうやめて、そろそろ寝よう。二人とも風呂に入ってこいよ。それまで待っといてやるからよ」

「おう、じゃあ先にリリア入ってこいよ」

「え?あ、うん、分かった」


 少し反応が遅かったような気がするが、リリアがテクテクと歩いていく。心なしか、その足取りは思いように感じる。


「で、何か話があるのか、レント」

「さすがは親友、よくわかってるな」


 と言っても、俺のトラウマ、というか悩みごとに気づけなかった時点で親友失格だと思うのだが、そこは触れないでおこう。


「いや、何て言うかな。何かリリアが変なんだよ。お前の話を聞く前と後じゃ全然違う。勿論俺もお前の話にショックを受けたが、そんなもんじゃない。もっと何というか、自分を追い詰めるような感じだ」


 そういう心の変化に気づくことが出来るのが、レントの職業、『神託騎士』の利点だろう。精神や世界の神々に干渉できる力を持つ騎士職だ。


「で、そんな細かいことに気づけたってことは、やはりレントはリリアのことが「ちゃうわ‼」...何だ、違うのか」 


 少し冷やかし気味に言ってみたが、予想以上の反応で否定している。怪しいような気もするが、気にするのも野暮だ。やめておこう。


「まあ、論点がずれたから話を戻すが、俺は何をすりゃいいんだ?添い寝してやれとか言わんだろうな?」

「ひゅ~、ひゅひゅ~」


 わざとらしいその態度とテンプレートのような下手くそな口笛は、『図星』を意味する。


「はあ、お前最初からそのつもりだっただろ。何でよりにもよって俺なんだよ。俺が原因かも知れないのに、お前がやれよ」

「いや、あいつは多分お前を気にし「お風呂上がったよ~。二人で何話してたの?」」

「「⁉」」


 上がるの早っ‼まあ最後にレントが言おうとしたことも気になるが、お開きだな。


「じゃあ、レント風呂行ってこいよ。俺は疲れたから寝るよ」

「じゃ、じゃあ私も寝るから‼よ、よろしく」

「は⁉」


 レントを残して俺は自室へ向かう。だが、後ろからリリアが後をつけているのが、新スキル『絶対感知』で丸分かりだ。


「何でついてくるんだ?」


 俺は振り返りながらリリアに言う。驚いたのか、リリアが口をパクパクさせながら何かをいっている。


「取り敢えず落ち着け。お前のことが分かったのはスキルだ」

「そ、そっか」

「で、何でついてきたんだ?」

「え、えっと、カイジュに、一緒に寝てもらいたいな、って」


 は⁉こいつ何いってんだ‼そんなん他の男とやれよ。つーかレントとはいつも一緒にいるんだからあいつのベッドにでも潜り込んどけよ。


「何で俺なんだ?別にレントでもいいだろうに」

「そ、それは、カイジュじゃなきゃ、ダメなの」 


 上目遣いで、さらに涙をためながら言う。っ‼そんなに理由があんのか?もしかしてスキルが必要とかか?なら仕方がないな。少し暴論のような気もするが、自分でそう言い聞かせるとしよう。


「はあ、分かった。でもベッドはそんなに大きくないけどいいのか?」

「う、うん。別にいいよ」


 そう言って俺たちは同じベッドで一晩を共にした。勿論変な意味はない。俺はとにかく無心で早々と寝たと言っておこう。さらに言わせてもらうが、その日は夢にトラウマが出てこなかった。




 あれからしばらく経つが、レベルが相当上がっている。経験値ブースと系のスキルを創ったお陰で、レベルが大変なことになっている。


 そろそろ他の町に行ってみるのもいいかもしれない。といったところで玄関でベルの音がした。客だろうか、だがこんな森のなかに一体誰なんだろうか。


「はい、今出ます」


 そう言って扉を開けると、貴族のような風貌の二十代位の長身の男が立っていた。


「やあ、こんにちは。僕はフェリウス・ドラコニスと言うんだが、この辺りにあったテンペートという町を知らないかい?」

「いや、知らないが、それがどうかしたのか?」


 いきなり何だこいつは。神眼でステータスを見てみたが、そんなに目立つようなスキルはない。だが、本能がうずいている。こいつには何かがある。


「本当かい?君の口ぶりからは何かを知っているように聞こえるけど、まあいいや。こんな豪邸にすんでいるんだから一杯奢ってくれよ」

「まあ、それぐらい構わんが」


 そうして、フェリウスを居間へと通す。


「そう言えば君は何て言うんだい?」

「俺はカイジュだ。他にここに二人すんでるが、二人とも狩りに行っていて今はいないんだ」

「そうなんだね。てっきりずっと一人なのかと思っていたよ。転移者クン」


 な⁉こいつ何で俺が転移者だと分かったんだ⁉いや、そんなことはどうでもいい。こいつは一体何者だ?


「うーん、まあ僕の予想が外れたって言うのもすごいけど、かなり手練れのようだね。それにその観察眼、ただ者じゃないよね。どうだい?町のこととか全部話して僕の家の養子にならないかい?」

「確かにいい話だな。貴族様の養子何てそうそう成れるもんじゃない。だが断る‼」

「へえ、今のを振るんだ。何故か聞いてもいいかな?」

「単純なことだ。俺を養子にするのは願ったり叶ったりだが、他の二人も忘れるなよ?」

「おっと、そりゃそうだね。これは一本とられたね」


 フェリウスは陽気に冗談を交えながらも、会話を進める。さすがは貴族様、会話や交渉に慣れてらっしゃる。


「じゃあ、これは了承、ってことでいいのかな?」

「ああ、かまわない。他の二人には帰ってきたときに説明しておこう」




「「ただいま‼」」


 どうやら二人が帰ってきたらしい。フェリウス、というか俺たちの養父を見てどう感じるだろうか。また勝手に決めたと愚痴るだろうか。


「え⁉カイジュ、この人誰⁉」

「何か貴族っぽい見た目してんな」


 それぞれ別々の感想を漏らすが無理はない。いきなり自分家じぶんちに初対面の、しかもこの貴族と一目で分かる風貌の男がいたら、誰だって驚くだろう。


「あはは、どうもこんにちは。今日から三人の養父になるフェリウス・ドラコニスだよ。よろしくね」


 フェリウスは陽気に、終止笑顔を絶やさずに話している。一番最初に相手に好印象に見せるためだろう。


「養父ってどう言うこと⁉カイジュまた勝手に色々決めたでしょ‼」


 ほら来た。予想がバッチリ的中しちまったよ。もうこれ以上は気を付けた方が良さそうだ。


「それは......」

「僕が説明しよう」


 俺が言い掛けた時、会話に割り込むようにしてフェリウスが言った。


「僕はこの国の四大貴族の内一家、ドラコニス家当主フェリウスだ」

「あ、えっと、私はリリアです。てか何でカイジュはタメ口なのよ⁉相手は貴族なのよ‼」

「あーっと、レントです。これからは親子の関係になると思うから、敬語は止めるわ」

「あはは、よろしくね二人とも。リリアも敬語じゃなくていいよ」


 リリアにツッコまれるとか最悪だわ。あり得ん。


「ま、と言うことで、三人ともよろしく」


 俺たちは、国の四大貴族、ドラコニス家の養子として迎えられた。




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※貴族とは


 貴族は、この世界で姓を持つ一族のことを指す。貴族には爵位があり、上から公爵、侯爵、子爵、男爵、準男爵となっていて、上の命令は絶対だ。ただし、例外もあるが。

 また、身分は貴族、平民、奴隷、皇帝、国王、教皇の六つで、皇帝、国王、教皇は、各国ごとによって存在し、その国の頂点である。平民は、職務を全うするか、神から与えられし『職業』が有利になる職につき働くなど様々である。奴隷は、奴隷契約を施した主人の命令が絶対となる傀儡のようなものだ。そのため、一度奴隷契約を行うと、奴隷側から解約を求めて成功する確率はほぼ0に等しい。




カイジュ ❮LV. 121❯ ❮職業:魔神将❯

❮ステータス❯

生命力:12840

体力 :12980

筋力 :12800

敏捷 :12770

知力 :13000

魔力 :12720

魔放力:12000

幸運 :1260/5000

❮耐性❯

魔法無効,物理攻撃耐性(熟練度:8),毒無効,酸無効,石化無効

❮スキル❯

悪魔使役(従者数:2),想造,知天脳,地獄耳,神眼,感知妨害,体調把握,結界魔法,火属性魔法,転移,念話,亜空間格納庫,暴食,牙爪(熟練度:2),絶対感知


フェリウス・ドラコニス ❮LV. 27❯ ❮職業:錬金術師アルケミスト

❮ステータス❯

生命力:2800

体力 :780

筋力 :670

敏捷 :530

知力 :1070

魔力 :980

魔放力:1040

幸運 :50/100

❮耐性❯

寒冷耐性(熟練度:2),麻痺耐性(熟練度:1)

❮スキル❯

錬金術(熟練度:3),創造魔法(熟練度:1),剣術(熟練度:2),,水属性魔法(熟練度:1),風属性魔法(熟練度:1)


 『錬金術』とは、元々ある物質を別の物質に作り替える術だ。元々は非金属を金に変えるために編み出されたものだが、魔力が高くなければ使用できず、発動に必要な魔方陣が複雑なため、使える者が少ないと言われている。





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