転移者はいずれ人外に

@yaibakamishiro

第1話異世界転移と魔神将

 辺りに血生臭い臭いが立ち込める。現代日本では絶対といえるほどの確率の低い状況下に置かれている。側にはもう原型を留めきれていない巨大な赤い肉塊が。それをゆっくりと貪る悪魔が。目の前には......。

「や、やめ、ち、近づかないで‼」

 声が響いた後、沈黙が訪れた。




――――町は賑やかだ。彼の足音が揉み消されるほどに人が密集していた。群がる蟻から逃れる獲物のように彼はそそくさと学校へ走る。


 彼は寿ことぶき魁鷲かいじゅ。静岡県浜松市天竜区の高等学校に通う、高校二年生だ。天竜区では有名な天竜茶というものがあり、彼の学校では毎日のように飲まれている。


「はあ、学校めんどくせえ」


 ため息とともに出たその言葉は、現代の学生たちの意見をまとめたようなものだ。彼の通う学校は、卒業生全員が就職した学校だったため、絶対就職制を取り入れており、就職できなかったならば、同窓会に呼ばれないなどの迷惑な校則がある。


 そうして彼は徒歩二十分の時間を掛けて、ようやく教室に辿り着いた。


「うーっす」


 そんな挨拶をして、自分の机に行き、荷物をおろした。そこに別の少年が向かった。


「おっす、魁鷲」


 そう言って魁鷲のもとへ行ったのは、蒼空そら錬砥れんと。因みに錬砥という名前に込められた意味は、己を鍛え磨きあげるというらしい。


「おう。そういえば、宿題は終わったか?」

「宿題?そんなのあったか?」

「ああ、ほら、先週の数学で出されたヤツ」

「あ、ヤベ‼手つけてねえや」

 彼らのクラス担任はこの学校で最も厳しい教師モノであり、数学担当である。そして毎週末に大量の宿題が出される。提出出来ない場合は、居残りに加え、様々な罰則が与えられる。


 チャイムが鳴ると同時に扉が開き、ホームルームのため、担任が現れる。

 

「おい、蒼空座れ。ホームルームを始めるが、その前に宿題を提出してもらう」


 担任はそう言うと、椅子に座りこちらを目で見やる。


 次々と提出され、とうとう最後の一人、錬砥になった時に前触れもなく、教室が怪しげな光に包まれる。


「な、何が起こってんだ⁉」


 教師や生徒など関係なく喚きだす。カオスとなった教室で最後に見たのは、天井をすり抜けて現れる女性だった。




――――目が覚めると、そこは見たことのない不思議な建物の中だった。辺り一面、教室を包んだあの光が漏れており、目の前に、不思議な衣装に身を包む女性が立っていた。


「え、えーと、どなたでしょうか」


 敬語で始めたのは、見知らぬ他人だからだ。流石に高校生ともなれば、常識ぐらいはわきまえているつもりだ。


わらわは神、阿須波神あすはのかみ


 そう名乗った女性、改め阿須波神は、魁鷲の方へとゆっくりと歩を進める。阿須波神?それって日本の神様の名前のはず。どういうことだ?


「敬語でなくともよい。楽にせよ」


 神様相手に敬語をやめろって言われても。まあここは従っておこう。


「分かった。これでいいか?」

「それでよい」


 どうやらこの阿須波神は、ため口にこだわっているようだ。


「おっと、お主を此処ここに呼んだのは、訳があるのじゃ」

「訳って?」

「実は、我等がお主等をこの世界に召喚したのじゃ」


 確かに、この世界は、俺たちが住んでいた地球とは、少し違った気がしていた。


「そして、お主等には頼みがあるのじゃ」


 ゆっくりと唾を呑む。


「この世界に侵攻してきた異界の魔物を倒してほしいのじゃ」

「異界?どういうことだ?」

「この世界は妾、つまり神がまとめておるが、他の世界は、他の神が制しておる。そして、他の世界をまとめる神が、強大な力を持ちすぎてしまった。そして、その力を使って、他の世界を取り込もうとしておるのじゃ」

「でも、何で俺を?」

「そなただけではないぞ。他の者も喚んでおる」


 カイジュは考えた。そしてたどり着いた答えは、


「クラスの奴等か‼」

「そうじゃ。そしてお主等を喚んだもう一つの理由は」


 阿須波神がいい掛けて、やめた。そして数秒間何か呪文のような言葉を唱えると、床に魔方陣が現れて、中央からクラスメイトが出てきた。


「うお、ここ何処だ?」

「何これ⁉」


 皆驚いている。唖然と口を開いたままの奴もいるが。


「話の途中だったのう。理由は、そなた等の力についてじゃ」


 阿須波神は語った。


 先ずは『ステータス』について。ステータスは、その生物の様々な能力を数値化したもので、勿論数字が大きいほど強い。生命力はそのままの意味で、それが0になるとその者が死んでしまう。体力は、運動したり頭を使ったりすると消費するもの。高ければ高いほど疲れにくくなる。筋力は、物理攻撃力や物体を持つ時の目安となる。両手で持つ武器を扱ったりする際は、必ずといっていいほどこの数値が必要となる。敏捷は、言わば速さである。移動の速さ、攻撃を避ける時の速さである。知力は、その者の知識量を示す。闘えば闘うほど知識量が増えるというのは難儀なものだが、知力には、戦闘においての経験も含まれている。魔力は、魔法や魔法武器を使うときに消費する力で、その数値が高ければ沢山の魔法を放てるのだ。魔放力は、魔法を放つ際の攻撃力の目安である。つまり、魔放力が高ければその分その者が使う魔法の威力が上昇するのだ。幸運は、その者の運気を表している。幸運の数値は、戦闘によりレベルが上がることで上昇するが、人によって上限が存在する。


 次に『LV』について。LVは、ステータスと同じように、高ければ高いほど、その生物が強いことを示している。また、LVが1上昇するごとに、ステータスが上昇する。


 加えて、『スキル』。スキルは、その生物が持つ特殊な力のことで、戦闘に役立つもの、生活に役立つものなど、種類は様々だが、最も有用に使えそうなスキルを『ユニークスキル』という。その名の通り、その生物のみが扱える固有のスキル。固有と言うだけあって、ほとんどが強力なもので、過去には、時間停止や瞬間移動などもあったらしい。さらに、スキルは、何度も使うことで熟練度が上がり、熟練度が高いと、そのスキルの恩恵も大きいのだそうだ。


 最後に『職業』。現代での職業のイメージは、自分でその職に就くために必要な力を備えてからなるものだったが、こちらの世界での職業とは、15歳になって神から与えられる、いわば天職なのだ。そして、職業にもLVがあり、職業LVをあげることで、その職業専用の様々なスキルを得られるそうだ。


「ふむふむ。それで、俺達にはどんな力があるというんだ?」


 いつの間にかしゃしゃり出た羽生はにゅう永人ながとが言った。


「それでは、『ステータス』、と念じてみよ」


 カイジュは、心の中で『ステータス』‼と叫んだ。


 すると、頭の中に数値が浮かんできた。


----------------------------

カイジュ ❮LV:1❯ ❮職業:魔神将❯

❮ステータス❯

生命力:340

体力 :480

筋力 :300

敏捷 :270

知力 :600

魔力 :220

魔放力:0

幸運 :10

❮耐性❯


❮スキル❯

悪魔使役(従者数:0),想造

----------------------------


 と、あった。見慣れない言葉、『想造』。漢字から予想するに、考えて造るようだが、一体何のことやら。て言うか、俺の姓消えてるし。まいいか。


「なあ、質問いいか?」

「よいぞ」


 カイジュが阿須波神に、スキルと自分の職業について訊いた。


「ほう、これまた珍しいモノを。まず『想造』じゃが、それは、自分が想像したものを創造するユニークスキルじゃ。そいつは特別でな、熟練度が存在せん。分かりやすくいえば、最初から熟練度MAXのようなモノじゃな」


 つまり、金貨をつくるには、金貨の原材料、金が必要という訳だ。


「そしてそなたの職業『魔神将』は、悪魔の使役など、人には出来ぬ芸当ができる。『想造』もその一つのじゃな」

(なんとなく自分について分かった気がする。つまり俺は、もう人ではない。まさになのだ。)


 カイジュがそんなことを考えている間に、他の者への説明が終わった。


「それではお主等、我が世界を頼んじゃぞ」


 阿須波神はそう言うと、これまた長い詠唱をして、俺たちのたっている床に魔方陣を出現させた。


 魔方陣から発せられる光がどんどん光度を増し、やがて何も見えなくなった。


 しばらくすると、自分が見慣れない草原に立っていたことに気づいた。


「おい、皆大丈夫か?」


 ナガトがみんなに声をかける。みんな先程までの動揺と比べればそこまでではないが、やはり、自分達が異世界にやって来たことに、困惑している。


「取り敢えず、先ずは全員が生活できる場所を探そう」


 ナガトはそう言って、クラスのやつらとともに歩き出す。


「おい」


 不意にナガトに、声がかかる。振り向くと、カイジュがいた。


「なんだ?」

「お前、何処に町があるか分かるのか?」

「い、いや、わからないけど」


 勿論そんなことは全員分かっている。初めて来た場所だから当然だ。


「それに、俺はお前たちとは行動しない」

「何でだ⁉一緒にいた方が安全だろ⁉」

「確かにそうだけど、少人数で行動した方が、動き易いだろ」


 正直俺は、大人数でまとまって行動するよりも、一人や少人数で、自由に動く方が好きだ。つまり俺には、協調性がない。


「俺は賛成だな」

「な?!レントまで?!どうゆうことだよ‼」


 見た限り、ナガトは焦っているようだ。何、とは分からないが。


「まあ、カイジュについていくけどな」

「流石俺の親友だ」


 そう言って、俺は苦笑いする。


「つー訳で、俺達はこれで失礼するぜ」

「ま、待てよ」


 俺はその言葉を無視して、レントとともに森の奥へと歩いていく。



――――暫くして、


「ふぃいいー、疲れたぜ」


 俺達は、クラスメイトと別れた後、暫く歩いて魔物と戦闘した。二人で協力して、計七体を討伐した。内二体は、中型の猪で、『ボア』という、二本の角を持った魔物だった。そして、残りの五体はRPG でよく見る『スライム』だった。雑魚かと思ったが、体の中心である核を壊さない限り、無限に粘液が増える魔物だった。なぜ俺がこんなに詳しいのか。それは、俺の得たスキルにあった。


「いいよな。カイジュは」

「ん?どうした?」

「だって、何でも作れるじゃねえか」

「まあそれが『想造』の本領だからな」


 そう、『想造』は、何でも、それこそスキルすらも創れる。そうして俺が創ったスキルの数々を紹介しよう。

 一つ目は、世界の全てを知り、世界すらも超越する知識量を持つ『知天脳』だ。知天脳は、知識を保有する本のようなもので、自分の意識で検索することができる。勿論俺のオリジナルだから、ユニークスキルだ。

 二つ目は、生物の持つ五感の一つ、振動を音として聞く力、聴覚の究極型、『地獄耳』。音は、何もない真空中や、振動を伝えるモノが途中で遮断されていたりすると、感じとることができない。だが、この地獄耳は、それを超越する。

 三つ目は、五感で最も大事で当たり前のような存在となる、目の力、視覚の究極型、『神眼』。視界を広げたり、視ることのできる距離や細かさなどを超強化し、さらに、目の前に物体があろうと透視する。また、この世界特有のステータスも覗くことができる。

 そして最後のスキルは、気配、魔力、熱量など生物を感知するための構成要素を、自分以外の生物から遮断する(つまり自分以外の生物は、自分を気配としても、魔力、熱量としても感知するすることができなくなる)『感知妨害』。このスキルを使えば、神界から俺たちを見ているという阿須波神が俺を感知することも出来なくなるはずだ。

 こんなチートのようなスキルを大量に創っている気がするが、どうやら俺の職業『魔神将』は、他の職業と違い、経験によるスキル習得ができないらしい。だから、しょうがないと思ってやっている。


「で、どうする?夜が更けてきたが、魔物はうじゃうじゃいるぞ」


 レントが不満を漏らす。だが心配は要らない。何故なら俺は何でも創れるから。

 



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以下、現在のステータス


カイジュ ❮LV. 6❯ ❮職業:魔神将❯

❮ステータス❯

生命力:1,340

体力 :1,480

筋力 :1,300

敏捷 :1,270

知力 :1,600

魔力 :1,220

魔放力:1000

幸運 :110

❮耐性❯


❮スキル❯

悪魔使役(従者数:0),想造,知天脳,地獄耳,神眼,感知妨害



レント ❮LV.5❯ ❮職業:神託騎士❯

❮ステータス❯

生命力:1,140

体力 :900

筋力 :1,020

敏捷 :930

知力 :600

魔力 :1,000

魔放力:200

幸運 :50

❮耐性❯

刺突耐性(熟練度:1)

❮スキル❯

四神獣召喚,拳打(熟練度:1)



 







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