第2話優秀な部下を創ってみた

 俺たちは阿須波神あすはのかみによって、異世界に転移させられ、それぞれ特殊な力を授かった。俺は、何でも創れてしまうスキル、『想造』を、レントは、世界の四方を守護する四体の神獣を召喚できる『四神獣召喚』を。


 そして、俺たちは今、不祥事に直面していた。


「で、どうする?夜が更けてきたが、魔物はうじゃうじゃいるぞ」


 レントが不満を漏らす。だが心配は要らない。何故なら俺は何でも創れるから。


「ここで俺の出番って訳だな」

「何をするんだ?」

「ん?魔法でも創ろうかと思ってな」


 そう。俺のスキルを持ってすれば、魔法でも創ることができる。


 そして、現状をかんがみれば、無防備な状態でも安心できるようにする魔法。案はいくつかある。

 一つ目は、周辺の敵や害を殲滅する凶悪な魔法。

 二つ目は、持続的に効果を発揮する身体強化魔法。

 だが、二つとも、魔力消費量が多そうだから却下。つまり、元から持続的に効果を発揮し、さらに防御力も兼ね備えた魔法が必要となる。


 悩みの末至った結果、俺はを創ることにした。


 魔法などのスキルを創る時には、その効果などの概要とイメージが必要となる。俺は、視ることのできない壁や、物理攻撃や魔法を跳ね返し、俺の意思でその形を換えるのをイメージした。


「できたぞ‼」

「おお⁉何を創ったんだ⁉」


 俺は自分の目を大きく見開き、魔法を発動した。


「『光明結界』‼」


 その直後、俺を中心とした、半径十メートルが、透明な薄い魔力の壁に覆われた。


「おお‼すげえな‼一体どんな原理だ?」

「原理とか考えるなよ。んなもん分かる訳ねえだろうが」


 俺が創ったのは、『結界魔法』。一ミリにも満たない薄さだが、物理攻撃や魔法を跳ね返し、囲った内側を守る魔法。結界の種類はいくつかあるが、今のは『光明結界』と言って、不可視結界で、さらに俺のイメージで好きなように形を換えることができる。


「じゃあ取り敢えず、魔物が群がって来ないようにするか」


 俺は、結界の表面に鋭い針が出るイメージをした。すると、神眼で分かるのだが、結界の表面には、おびただしい量の針ができていた。しかもこれも結界だから、触れたモノを玉砕できる。


「これなら安心して寝られそうだな。つー訳で、俺はもう寝るわ」


 そう言って、レントは寝てしまった。


 さて、俺は何をしようか。新しい魔法を創るのもありだが。そういえば、俺のスキルに『悪魔使役』があったはず......。


「よし、材料はどうしようかな。ここは知天脳‼」


 知天脳によると、俺が創りたい悪魔の材料として欲しかったモノは実在するらしい。それは、『バジリスクの毒袋』と言って、バジリスクという毒を使う危険な魔物の体内器官の一つ。即死級の毒や麻痺毒、睡眠毒など様々なようだ。

 そして、その毒袋と現在俺が内包する血液の一割、そして、様々なスキルから創り出す。


「先ずはスキルかなぁ。やっぱ暗部とか刺客とかそういう奴がいいから......」


 そして、試行錯誤しながらのためのスキルを構築した。


「よし‼じゃあ最後に毒袋を『想造』して、併せる‼」


 一気に感じる脱力感。俺の体から血液が抜けた証拠だ。目の前で、俺の血液と毒袋、そしてスキルのような光が混ざっていく。そして、完成した。


「できた⁉よし、よっしゃあ‼」


 できたそいつは、俺の方を向き、じっと見ている。


「どうしたんだ?」

殿との、と呼ばせていただきます」

「お、おう」


 どんな生物にも名前が必要不可欠だ。そのためにこいつの名前を考えておいたのだ。流石俺。


「よろしくな‼俺はカイジュ、カイジュ・コトブキだ。そしてお前は、俺の第一の部下、レスレイだ」

「レス、レイですか。有り難うございます、殿。これからこのレスレイ、殿に永久の忠誠を誓います」


 そうしてレスレイが俺の部下になった。堅苦しいけど、これが俺のイメージした結果だからしょうがない。


「あ、お前の住む場所なんだけど、すまないが、暫くは魔界にいてくれないか?」

「勿論、殿の御命令とあらば構いません」

「そうか。あと、お前は強力な悪魔だから、そうそう死ぬとは思えないが、死なない程度に、ほどほどに鍛えておいてくれ。いざってときのためにな」

「は、承知しました」


 そう言って、レスレイは転移魔法で、魔界へ転移した。ちなみに魔界というのは、危険な魔物が巣食う場所。平均レベルが500位あるらしい。転移魔法というのは、特定の座標に自分や周りのモノを瞬時に移動させる魔法だ。ただ、俺には知天脳があるから、座標なんて簡単に分かるからな。


 レスレイを創った際に、ステータスを確認してみたが、レベル1にしてはなかなか高い数値があった。


「さてと、俺もそろそろ寝ようかな」


 そして俺の意識は遠退いていった。


「ん、ふわああ」


 早朝そうそう大あくびをした俺は、ちらっと隣を見た。レントはまだ寝ているようだ。さて、こいつが寝てる間になんか創ろうかなぁ。


「そういえば昨日血を使ったんだったな。そうだな」


 俺がそう思って新しく創ったスキルは、『体調把握』というスキルで、体温や血液総量と残量、魔力総量と残量、空腹度、症状が数値として視界の右上に表示されるパッシブスキルだ。ちなみに現在の体調は、体温36.7度、血液93/100%、魔力1410/1420、空腹度60/100%、症状:安心、と写し出されていた。俺のイメージ通りなら、空腹度のパーセンテージは、数値が100%に近ければ近いほど、空腹だ。100%になると、数分もせずに餓死するようだ。血液も、15%を下回ると、多量出血で死ぬっぽい。経験はしていないが。


「うっ、あああ」


 そうやって、レントが起きた。あまりに大きい声だったから、何事かと思った。


「うおっと、すげえなこりゃ」


 レントの視線の先にあるのは、光明結界によって殺された、大量の魔物の死骸だった。一晩経っているのだから、ほぼ腐りかけていた。

 これはきつい。吐き気を催すほど強烈なものだった。


「まあ、これは焼却処分して、朝食でもとろうぜ」


 そう言って俺は、結界魔法を解いて、腐敗した死骸を燃やすための火属性魔法を創った。

 ただの火属性魔法では面白くないから、イメージで威力を調整できる『ジャスタメント・フレイム』を創ってみた。消費魔力は、イメージした威力に比例する。


「『ジャスタメント・フレイム』‼これでいいだろ」


 だが、燃やしている間の腐敗臭は、堪らなく臭かった。もう、本当に無理。


「おーい、準備できたぞ‼」


 準備と言っても、昨晩狩った魔物の肉を焼いただけだ。


「それで、これからどうするんだ?町とか方角も分からないぞ?」

「いや、それはどうにかなる。ただ、いくつか問題がある」

「なんだ?」

「一つ目は、俺たちの戦闘技術だ。お前は、経験によるスキル習得ができるが、俺にはできない。それに、もっと強いのが出てきたらそれこそお仕舞いだ」

「じゃあどうするんだ?」

「武器を創る。それだけだ」


 俺の知天脳で、武器の構造や素材なんかは簡単に調べられるからな。


「そうか。他は?」

「二つ目は金だ。人里で生きていくには、必ず金が必要になる」

「もしかしたらギルドとかそんなのがあるかも知れないぞ?」

「ああ。確かにそうだが、それはあくまでも可能性にしか過ぎない。なかったら一大事だ」

「ふーむ、考えなきゃいけないことがたくさんあるな」

「まだあるぞ。規制が厳しければ、通行証が必要になるかも知れない。ここから狩りが出来なければ食糧難にあう」

「だけど、それこそお前のスキルで調べられないのか?」

「あっ」

「っておい‼」


 完全に忘れていた。早速調べなければ。


「まあ取り敢えずここから西へ向かおう。そうすれば、少し大きな街があるっぽいぞ」


 歩いて向かっている間に、俺は問題点について調べた。武器には色々な種類があって、近接武器として主に、剣、槍、斧、爪が挙げられる。遠距離武器は、弓と杖だ。中距離武器としては、鎌かな。あとは、地球での武器、銃だ。

 銃は構造が難しく、弾も全部金属製にしなければならないからパス。ここは無難に剣でも創ろうかな。


「おい、そろそろ着くぞ」


 そう言って、前方を見ると、大きな門が立っていた。


「す、すげえ」


 レントが驚嘆を漏らす。


「確かに凄いな。『キエフの大門』よりも大きそうだ」


 キエフの大門とは、ウクライナの首都キエフにあったとされる門の名前だ。


「何か列ができてるぞ」

「騒がしいわけでは無さそうだが、一体なんだろうな」


 近づいて見ると、街へ入るために必要となる身分証を提示する列のようだ。


「どうするんだ?俺たちそんなの持ってないぞ」

「困った。実に困った」


 正直、俺のスキルで創ろうと思えば創れるのだが、そんな犯罪紛いの行為はなるべく避けたい。だが、身分証がないと、街へ入れないのが現実。一体どうしたものか。


「まあ成り行きに任せようぜ。もしかしたら、持ってなくても発行できるかもしれないしな」


 レントの目論見は当たっていた。衛兵に、身分証を持っていないことを伝えると、金を支払うことで発行できると教えてもらった。


「金、かぁ。すみません、今持ち前がないんです。ただ、路銀にするための魔物の素材は持っているので、それでお願いできますか?」

「ああ、構わねえぞ。じゃあそこに素材を出してくれ」


 俺は、レントに知られぬ間に討伐した、『リトルサイクロプス』の魔眼を出した。サイクロプスというのは、目が一つしかない、鬼のことで、ベテラン冒険者がパーティーを組んで挑むほど強いらしい。リトルサイクロプスは、サイクロプスの下位互換で、サイクロプスと比べると弱いが、そこそこ強いらしい。そして、サイクロプス及びリトルサイクロプスの魔眼は、とても繊細で、少しでも傷がつくと、値段をつけられないらしい。だからこういう時のために、傷一つない綺麗なモノを用意しておいたのだ。


「す、すげえな兄ちゃん。サイクロプスの魔眼でこんなに綺麗なのは初めて見たぜ。これなら発行に必要な銅貨5枚分と釣りとして、銀貨10枚は出せるぞ」

「おお、そんなにか」


 この国、『テンペート』での通貨の価値は、銅貨100枚が銀貨、それが100枚で金貨に、金貨100枚で白金貨となる。価値だけでいえば、銅貨一枚が日本円100円のようなモノだ。


「それじゃ、この街で充分楽しめよ」


 衛兵のおじさんは、俺たちに手を振りながら大声でそう言った。


「さて、どうする?街についたのはいいが、銀貨10枚かあ。もうちょっと、稼ぎたいな」

「なら冒険者ギルドへ行こう。衛兵のおじさんが言っていたが、そこの角を曲がった先にあるらしいぞ」

「じゃあ早速いこうぜ」




 ギルドの扉を開くと、多くの冒険者がいた。全身を重金属の鎧で囲む者や、仲間と楽しそうに談笑する者など、様々だ。向かって正面に受付カウンターのようなものがあり、そこに何人か女性が立っているので、そこにいってみよう。


「すみません」

「はい、何でしょう。ご依頼ですか?」

「いえ、冒険者登録に来ました」


 俺とレントは並んで言った。ちなみになぜ俺がこんなことを知っているのかというと、昨晩とっくに予習済みだからだ。


「登録ですね。では、この紙に必要事項をお書き下さい。代筆も出来ますがどういたしますか?」

「では代筆をお願いします」

「承りました。それでは、そちらの方は、あそこのテーブルへ」


 そして、俺はこの女性と近くのテーブルに座った。


「あなたのお名前は何ですか?」

「カイジュ・コトブキです」

「つかぬことをお聞きしますが、性別と年齢をお願いします」

「16歳で男です」

「これが一番重要なのですが、あなたの職業を教えて下さい。ただ、どうしても無理な場合は、身分証を提示して下さい」


 俺は迷わず身分証を提示した。この世界での悪魔の評価は分からないが、こんなユニークジョブは決して教えられるようなものじゃない。


「はい、それではこれで終了です。今日からあなたはEランク冒険者です。依頼頑張ってくださいね。あっ、あちらの方も終わったようですし、一緒にギルドのシステムについて説明しますね」


 結構長かったから要約するが、内容はこうだ。

 冒険者には、ランクがあり、同じランクかそれより一つ上のランクのクエストを受けられるらしい。ランクは、EからSまであり、Sに近付くほど信頼が厚く、強いらしい。


「それじゃ、何かクエスト受けてみようぜ」


 レントは、クエストボードの方へ向かった。


「あの、すみません」


 不意に声をかけられた。何だ、と思って振り向くと、赤髪の少女が立っていた。怪しいので取り敢えず神眼でステータスを覗く。


「えっと、リリアと言います」

「俺はカイジュだ。敬語じゃなくていいよ」

「じゃあそうするわ。あなた今登録したばかりでしょ?」

「ああ、それがどうかしたのか?」

「冒険者について知らないことがあると思うから、私が教えてあげる。その代わり、私とパーティーを組まない?」

「ん-、俺としてはいいと思うんだけど、もう一人、俺の仲間が了承したらいいぞ」


 と、話している最中にレントが来た。


「何してるんだ、カイジュ?ナンパか?」

「ちげえよ。パーティーに勧誘されたんだ」

「あなたたち、私とパーティーを組まない?あ、私はリリア・ケインっていうの。よろしくね」

「俺はレントだ」

「で、どうする?組むか組まぬか」

「まあ、いいんじゃねえの」

「じゃ、決まりね‼これからよろしくね、二人とも‼」


 そう言って、リリアは去っていった。


「レント、もう日が沈み始めたし、今日は宿で休もうぜ」

「そうだな」




 俺たちは、一人部屋を二つとった。


「さて、本日は武器と、鞘を創ろうかな」


 武器を創る素材は、もう決まっている。魔鉱石と呼ばれるミスリルとアダマンタイト、そして、その二つを融合させるためのカオススライムの粘液を使うことにした。カオススライムとは、様々な魔法を吸収して、真っ黒な色になったスライムのことだ。そしてその粘液は、魔法を発動した時の威力を伝える、魔力伝導率が120%もあるのだ。

 そして、その三つを材料に、新たな金属を創り出した。黒く重い重金属、『アビス』の完成だ。神眼で鑑定してみると、魔力伝導率は驚異の200%。つまり、威力200の魔法を放ったとすると、その威力は400へ跳ね上がる。

 そして、これを剣の形にして、俺の想像力を働かせ創った武器が、


「出来た⁉これが『憤怒の法剣』だ‼」


 ちなみに法剣というのは、魔法を自在に扱える剣で、魔法剣とは別物だ。魔法剣は、付与された特定の魔法しか使えないが、そこそこの威力を出せる剣だ。

 なぜ『憤怒』としたのかは、キリスト教に、七つの大罪というものがある。その中の憤怒の罪を模して創ったからだ。柄から刃までアビスで創り、憤怒の紋章を彫ってみた。大分カッコいいと思う。


 勿論鞘も同じアビスで創るのだが、これはちょっと気合いを入れて、ヒヒイロカネを装飾に施してみた。これの名前は『咎めの鞘』。憤怒の法剣を納めているので、その憤怒を咎めることを願って創ったものだ。


「おお、黒と赤でいい感じだ。これを明日から使って行こう」


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レスレイ ❮LV. 1❯ ❮職業:暗殺技師アサシン・グリード❯ ❮種族:悪魔❯

❮ステータス❯

生命力:120

体力 :200

筋力 :200

敏捷 :870

知力 :680

魔力 :320

魔放力:480

幸運 :0

❮耐性❯

毒属性無効,毒無効,石化無効,物理攻撃耐性(熟練度:1),精神攻撃耐性(熟練度:1)

❮スキル❯

金属錬成,金属加工,転移,毒創造,毒加工




憤怒の法剣 ❮武器種:法剣❯

❮材料❯

アビス

❮法剣技❯

?????

❮特性❯

魔力伝導率200%,?????




咎めの鞘 ❮武器種:鞘❯

❮材料❯

アビス,ヒヒイロカネ

❮特性❯

魔力伝導率200%,?????



 ミスリルとは、純粋な物質で、天然の魔鉱石で最も硬い鉱石だ。魔力伝導率は80%と低いが、酸化しないので、脆くなりにくい。


 アダマンタイトとは、混合物で、人工の魔鉱石で最も硬い鉱石だ。魔力伝導率は100%と高いが、酸化が他の鉱石よりも速く進むので、脆い。


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